第18話

 登校中、駅までは、昨日の彼女の件が頭に残っていたが、電車に乗ったら気にならなくなった。それよりも彼の妹に出来ることはなんだろうかということを考えるようになってきた。

 考えれば考えるほどドツボにハマる。何も思いつかない。駅から学校までの道のりで個人商店が並ぶ通りがある。商店街という程ではないが、服屋だったりお米屋さんが並んだりしている。ほとんどは閉店してしまっているので、いつもは気にかけてはいなかったのだが、その中に雑貨屋さんがあることに気が付いた。


(この店って、やってたんだ)


 いつもシャッターがしまっている気がするので、ついそんなことを考えてしまう。店を少し覗いてみると、ショーウインドーから可愛らしい熊のぬいぐるみに引き付けられた。彼女の年頃的に見ても丁度良さげだ。そうか、プレゼントなら少しは気も晴れるのではないだろうか。

 値段を見ると、とんでもない値段という訳でもない。店の中には人が見当たらなかったので、放課後寄ることにした。

 放課後、駆け足でその店に行き、お目当てのぬいぐるみを購入した。喜んでくれるだろうか。珍しく、期待が不安を上回っている。

 翌日、学校に行くと、早速彼に話しかけた。


「今日は妹のお見舞い行くの?」

「え、あぁ」

「俺も着いて行ってもいいか?」

「えっ?マジか!もちろんだよ!」


 彼は少し驚いた様な表情を見せたが、すぐに嬉しそうに笑って快諾してくれた。

 病院に着き、彼女の部屋に行くと早速ぬいぐるみを渡す。二人とも驚いた様子だったが、彼女の表情がすぐに明るくなり


「ありがとう!」


 爽やかな風に舞うカーテンをバックにそう言う姿はとても眩しかった。

 こんなに喜んでくれているのなら、次も何かあげたくなってしまう。そこで、参考程度に聞いてみる。


「今一番欲しいものって何かあるの?」


すると彼女は表情に少し影を落として


「あの桜の木が見たい!」


とうに桜が散った木を指差した。


「あの木ってすっごい大きいんだって。でも私はまだ見たことないの。ずっーとびょういんだから。でも先生は出ない方が良いって」

「そうだなぁ。もうちょっと良くなればなぁ」


 彼の表情も落ち込んでいる様に見える。


「外に行っちゃいけない病気なの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど」

「外であっかしたら大へんなんだって」

「じゃあ、例えば一瞬だけ外に出るとかだったら?」

「うーん。おいしゃさんにきかないとわからない」


 彼女は首をかしげながら言う。これはいいかもしれないぞ。俺の超能力があれば彼女に喜んでもらえるかもしれない。

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