第20話

 俺は制服に着替え、玄関の前に立つと深呼吸をして、


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 目を開けると、風が向かってくる。辺りを見回すと、またバスの上に移動しているらしい。ここで焦っては、また変なところへ飛ばされてしまう。バス停で停まった隙を見て、歩道にうつる。

 再び深呼吸をする。


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 今度は、家に戻っている。ダメだ。俺はおでこに手を合わせ嘆く。時計を見ると、遅刻してしまいそうだったので、とりあえず、駅までは、走っていくことにした。

 電車に揺られ、駅につくと改札を出る。学校へ向かって歩いていく途中で、ふと考えが浮かぶ。

 今まで立ち止まってやってきたけど、動きながらやるとどうなるんだろうか?

 そう思いつくと、だんだんと早足になる。駆け足で助走をつけながら唱える。


「カエルぴょこぴょこみみょこぽこ・・・」


 自然と足取りが重くなり、立ち止まる。そして、もう一度走り出し、そのまま学校へと向かった。

 4限が終わってチャイムがなる。昼休みだ。疲れた体を伸ばしているとあいつが話しかけてくる。


「購買いかね?」

「あぁ、いいよ」


 弁当がないわけではないが、断る理由もなかったので、一緒に行くことにした。購買でそいつのことを待っていると彼女も並んでいるのが見えた。

 話しかけようか、どうしようか。


「あそこの本屋でバイトしてるの?」


いや、ダメだ。ストーカーみたいで気持ち悪い。


「悪い、悪い」


そいつが戻ってきたので、妄想を慌ててかき消す。


「ん?」


 そいつは不思議そうに俺の顔を見てくる。


「いやなんでもない。」


 そういいながら彼女を目で追いながら教室へと向かった。

 だべりながら昼食をとる。するとあいつがおもむろに口を開く。


「今日の放課後暇?」


 今日は特に予定がないことを伝えるとそいつが続けて言う。


「この間のお礼に映画でも見に行かない?俺がおごるよ。」

「別になにもしてないよ」

「嫌々、あいつも喜んでてさ。今度はいつ来るんだって何回も聞いてくるんだよ。」


 そんなまさか。と笑いながらも内心悪い気はしない。人から求められるのはなんだか久しぶりな気がする。


「言ってくれればいつでも行くよ。」

「マジか、じゃあ放課後詳しくはなそうぜ」


 そういって放課後そいつと映画に行くことが決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る