第11話

彼が俺に気が付き挨拶をする。周りも気が付いて挨拶してくる。続けて彼は、俺に肩を組んできた。


「こいつすげーの、なっ」


 そういって俺に同意を促してくる。俺は何のことだが見当がつかない。周りが少し騒がしくなってきて本当かどうか聞かれる。


「マジマジ、根性あるんだよ」

「今日もやるだろ?」


 そう続けるので、昨日の練習のことを話していることが分かった。まずい。筋肉痛がひどいのだ。今日は断らなければ。


「もちろんだよ」


 何を言ってるんだ俺は。他人に自分の気持ちをはっきり伝えるのって勇気がいるんだよな。ものすごく苦手なんだ。


「じゃぁ、昨日と同じ公園で」


 そういって彼は、周りのクラスメイト達と話を続ける。もう断るタイミングはない。仕方がない。今日も行くか、と少し肩を落としていると、女子クラスメイトが彼らに話しかけている。


「ねー、誰か古典の教科書もってない?」

「いやー、今日は古典ないしな」

「他のクラスは?」


 彼や周りが質問する。俺には関係ないことだと鞄から教科書を出す。引き出しに入れようとすると奥で何かが引っかかって教科書が入らない。手を伸ばして確かめると古典の教科書が出てきた。


「何に使うの?」

「いや、あの子が忘れちゃったんだって」


 指さすドアの先に彼女が少し不安げな表情でこちらを見ている。これは仲良くなるチャンスなのではないか。今この教科書を彼女に貸せば話すきっかけになる。でも、さっきまで関係ないって顔してたからな。いきなり話に入ったら気持ち悪いか。


「あ、ちょっと待って」


 彼が突然立ち上がる。自分の席で、鞄の中身を探している。笑みを浮かべながら教科書をもって彼がこちらへ戻ってくる


「現文と間違えて古文持ってきちゃった」


 どっと周りから笑いが湧き上がる。それから女子クラスメイトと一緒に彼女の下へ向かう。思わず、意識がそっちへ向かう。


「持ってたってー」

「代わりと言ってはなんだけど現文持ってる?」

「うん、持ってくるね」


 それから彼は彼女といくつか談笑をしてこちらへ戻ってきた。俺はというとあまりにもスムーズな会話の流れに途中でトイレに逃げ込んでいた。

 その日は一日気分が上がらなかった。別に彼と彼女がそういった関係にあるとか、直接的にショックを受けるような事は何一つない。しかし、さっきの会話が付き合うきっかけとなりそうな気がしてならない。

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