第8話

体操が終わるといよいよ体育祭の練習だ。恐らく二人三脚は最後の方だろう。だって彼は五種目出るのだ、まずそっちの練習が先だろう。さて、それまでどうやって時間をつぶそうか。


「おーい、やろうぜ」


 彼がこっちに呼びかけている。今回は、すぐに俺のことを読んでいることが理解することができ、駆け足で彼の下へ向かう。


「他の種目の練習は?」

「他は個人種目だからね」

「あぁ、そうなんだ」

「まずは、こっちを練習しないとな」


 眩しい笑顔をこちらにみせる。あまりの眩しさに少し目を細めてしまう。


「右側で良い?」


 彼は、確認しながら紐を結ぶ。


「えっ?初めて?」

「去年は何に出たの?」


 彼は矢継ぎ早に質問してくる。会話をしてくれる気持ちはとてもありがたいのだが、俺は会話を上手く広げることができない。そもそも二人三脚が初めてかどうかは知らないし、去年の体育祭のことは覚えていない。


「あー、初めてかな」

「俺もなんだよね。めっちゃ緊張するわ」

「いや、初めてなのかよ」


 思わず突っ込んでしまう。まずいと思っていたが、彼はきょとんとした顔をすぐに笑顔に変え、笑い出した。


「面白いな、お前」


 そういわれ、思わず照れてしまう。


「が、頑張ろうぜ」


 二人三脚なので肩を組もうとするのだが、彼の肩に組もうとすると俺は腕を伸ばし切らないと届かない。その姿は、やはり滑稽らしく、何人かこちらを見て笑っているような気がする。やはりこの身長差で二人三脚は無理があったのではないだろうか。穴があったら入りたい。

 練習を始めると意外に息がピッタリあう。話したことがない彼とこんなに息が合うとはとても驚いた。


「すげーな。これなら優勝できるだろ」


 彼も驚いているのか、喜びを隠せないといった感じだ。試しに他のクラスメイトと競争してみると圧倒的に一位だった。

 これが良かったのだろう。少し認めてくれたのか。彼は、どうしたらもっと速く走れるか俺に意見を求めてくる。


「これだけ速いならもう良いんじゃない」


と俺が言うと


「いや、他のクラスにはもっと速いやつがいるかもしれないだろ」


 どうやら彼は、熱い男らしい。流石バスケ部だ。関係あるのかどうかは知らないが。しかし、自分で言うのもなんだが、クラスの中では一番速いのだ。


「いや、まて。団体戦だから俺らだけが速くても意味がない。集合!」


 彼は他の参加メンバーにも招集をかける。


「どうやったらもっと速く走れると思う?」


 他のメンバーも余っていたから二人三脚に参加しているわけで、俺と同じようなクラスでも目立たないメンバーだ。俺が勝手にそう思っているわけかもしれないが。彼からそう聞かれて、すぐに意見が出てこない。晴れた日の午後に似合わない沈黙が続く。


「あーあ、スイッチ入っちゃったよ」


誰かが遠くからつぶやく。気まずい空気に耐えきれず、


「走る順番じゃない?」


 と意見を出す。


「多分だけど、普通のクラスは速い人から並べるんじゃないかな?」

「じゃぁ、遅い人から走らせる?」

「いや、それだと後半が苦しくなるから、速い、遅い、遅い、速いみたいな順番で走れば後半で逆転できないかな?」


 彼は、自分の頭でそれを整理しているようで、斜め上をむいている。


「この順番で走れば、遅い人達も相手を抜くのではなくて、相手に離されないを目標にできるから、気が楽に走れると思う」


 珍しくこんなに喋った。突然色々話し始めて気持ち悪いと思われてないだろうか。というか話すスピードは速くなかっただろうか。色々気にかけていると


「アリだな」


 と彼が言う。


「うん、俺らはあまり速く走れないけどこれなら出来そうな気がする」


 他のメンバーも賛成のようだ。


「後はバトンパスも重要だよね」


 さらに別のメンバーが意見を言う。


「確かに」


 また賛同が聞こえ、色々な意見が出てくる。彼が皆の意見をかきながら、まとめていく。


「よし、これを練習して、優勝だ」


 彼に続いて俺らがこぶしを挙げる。なんだが本当に優勝できそうな気がしてきた。するとチャイムがなる。


「やべ、みんな今日の放課後暇?」


 彼の質問に皆が暇だとまばらに答える。俺も暇だというと彼が


「放課後近くの公園で練習しようぜ」


 提案し、放課後練習が決定した。

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