第7話

 昼休み、今日は弁当をもってきていなかったので、食堂で食べることにした。昼休みは始まったばかりにもかかわらず。食堂は生徒でごった返していた。そんな中、ひときわ輝いて見える生徒がいた。彼女だ。

 話しかけるのは無理だろうけど、なんとか近くで姿を拝むことくらいは出来ないだろうか。けれどもこの人ごみだ。近づくのだって容易ではない。

 なにか一瞬で彼女の近くに行ける方法があればよいんだけど。いや、あるな。そうだ。瞬間移動を使えばよいのか。よしと意気込む。


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 唱えると、彼女の前に颯爽とあらわれる、、、ことが出来ず、少し離れた別の女子生徒の集団の前に来てしまった。


「キャー」


 悲鳴と共にその女子生徒から力強く押され、尻もちをついて倒れこんでしまった。不幸なことにこの悲鳴は、多くの生徒から視線を集めることになってしまった。彼女もこちらを見ており、目があってしまう。時が止まったように見える。

 まずい、まずい、まずい。


「カエルぴょこぴょきょ・・・あれ」

「カエルぴょこぴょこ六ぴょこ・・・間違えた」


 慌てた舌では上手く唱えることができない。もう誰も気にかけていないようだったがまだ視線を感じる気がする。足の震えを抑えるように人ごみをかき分けて食堂から抜け出した。

 うつむいて渡り廊下を歩く。もっと簡単な早口言葉なら良かったんだ。

「例えば・・・竹屋に高い竹立てかけた。とか」


いや、かえって難しくなってるか。少し落ち着きを取り戻して、段差に腰をかける。 

 すると、そよ風が俺の顔をくすぐる。そして、どこからともなく竹の葉のさざ波が聞こえる。それだけじゃない。誰かの話し声も聞こえるのだ。

 あたりを見回すが、誰もいない。気のせいか。


(五限数Ⅱか。だりー)

(変な髪型)


 勢いよく立ち上がる。気のせいではない。誰かの話し声が聞こえてくる。校舎で話しているやつらの声か?それにしては妙に近くに聞こえる。不思議に思った俺は、廊下に近づき、食堂へ向かう女子生徒に向かって唱える。


「竹屋に高い竹立てかけた」

 

 だめだ。昼休み、校舎では多くの生徒から様々な声が聞こえてくる。女子生徒の声と判断することができない。

 こうなったら、食堂から一番近く、人通りがそこそこあるトイレの個室へと駆け足で向かう。身を隠した。少しすると近くに教室のある一年生だろうか。すぐに足音が近づいてきた。足音がやんだところで、そっとドアを開け、彼が用を足しているか確認する。

 こちらを見ていないのを確認して、彼に向けて小さい声で唱え始める。


「竹屋に高い竹立てかけた」


(あっぶねー、マジで漏らすかと思ったわ)

 

 やっぱりそうだ。この早口言葉はテレパシーが使えるのだ。ちょうど予鈴が聞こえたので、勢いよく個室から出ると、教室に向かった。

 教室につくと、生徒が数えるほどしかいない。黒板を見ると、

五限体育、校庭集合

 そうだ、次は体育か。急いで着替え、校庭に向かった。既に校庭にはクラスメイトが集まっている。なるべく目立たないように列に並ぶと隣にいた彼が話しかけてきた。


「今日はよろしくな」


 何で隣にいるんだ。背の順なんだからもう少し離れているはずだろ。という言葉をぐっと飲み込み。


「う、うん」

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