第6話

 チャイムがなり、担任が本を机に置き、立ち上がる。参加種目も決まり、一軒落着だ。いつものように教室から急いで出ようとする。特に部活に所属しているわけではないし、アルバイトをおこなっているわけではないので、全く急ぐ理由はないのだが、なぜかいつも帰宅を急いでしまう。 すると


「じゃぁね」


 誰かに声をかけられた。彼だった。だとすると、俺に話しかけたわけじゃないな。しかし、彼の視線はこちらをむいている。後ろを見ると、クラスメイトが手を挙げていたので、やっぱり俺じゃないと思い、何も言わずに教室を後にした。

 俺に挨拶したわけじゃないよな。確かに後ろで挨拶していたやつもいたし。けれども彼は俺にしたつもりだったらどうしよう。無視した愛想の悪い奴だと思われているのではないだろうか。不安を巡らしていると、気がついたら自宅に近づいていた。


「あぶない」


 声に驚き、階段に躓きそうになる。声の方を見るとアイツがいた。


「なんだよ、せっかく注意してやったのに」


(危ないって、お前の声のせいだよ。)


 取り合えず、会釈位は一応すべきだったか。明日からは気をつけよう。


 翌日、学校へ着くと、聞き覚えのある声が耳に入った。


「おはよう」


 彼だったので、辺りを見回す。誰もいなかったのと昨日のこともあったので、俺に挨拶しているとおもうことにして、軽く会釈をする。すると、彼の顔が少し明るくなったように見えた。それから彼は、俺の席の隣に座った。周りには自然と人が集まってくる。


「この動画が面白くてさぁ」

「昨日はあのまままっすぐ帰ったの?」

「やべー、数学の宿題してねーわ」


 彼と彼の友人たちは、俺の周りで盛り上がる。ところどころ彼が話を振ってくれるが、俺は、上手くリアクションをとることができない。相槌をうつのが精いっぱいだ。

 チャイムが教室に響き、今日も授業が始まろうとしていた。周りから人が少なくなっていく中、彼が去り際に彼が言った。


「今日の体育、体育祭の練習だって。よろしくな」


 午後の体育の時間を考えると、なんだか少し腹が痛くなってきた。

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