第4話
さっきまでとは何が違ったのだろうか。アイツにそのことを聞きたくてたまらないのだが、やはり姿はない。
すると、電車のスピードが緩やかになり、次の駅につく前に停車してしまった。安全確認の為らしく、アナウンスで待つように促される。
ふと時計を見ると時間的にギリギリになりそうだ。自慢じゃないが遅刻だけは一回もしたことないんだ。しかし、学校の最寄り駅に着くには、あと二駅ある。壁に寄っかかり、こまめに時間を確認する。こういう時は5分でも1時間のように感じる。今朝の母とのやり取りも頭に浮かび、余計にイライラしてしまう。
「間に合うかねぇ」
何事もなかったかのようにアイツが姿を現した。
「しかし、何でもう一回やらないんだ」
苛立っていたため、何の事か疑問に思っていたが、すぐにピンときた。そうだ。一瞬移動を使えばいいのか。
「それの呼び方もいいが、瞬間移動の方がしっくりくるな」
遠回しの言い方に再びムッとなる。嫌味な奴だ。決して間違えたわけじゃない。とにかく、ここで何もしないよりはマシだ。
「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」
唱え終わると同時に電車が動き始めた。
扉が閉まる音、水が注がれる音。見覚えのある景色だ。無理もない、毎朝利用しているからだ。そう、ここは高校最寄り駅の外にあるトイレである。
「まぁ、外でもトイレでも駅の一部ではあるよな」
全く嫌味な奴だ
結局、トイレから歩くことにはなったが、無事に登校時間に間に合うことができた。登校中、気が付くとアイツは三度姿を消しており、いつものように一人で登校することになった。
そういえば、アイツは他の人から姿が見えてるのかな。そうでなければ電車内で独り言言ってることにならないか?そう思うと急に恥ずかしくなってきた。と言っても瞬間移動した時も特に気にかけられている様子はなかったし、たぶん問題ないだろう。
そんなことを考えながら教室のドアに手をかけると、勝手に開いた。
「あっ、ごめん」
褐色の姿からのぞかれる白い歯が今日も美しい。その後すぐに彼女は長い足を華麗に躍らせながら自分のクラスに帰っていた。折角話せる機会だったのに。いつもそうなのだ。あまりの美しさに頭が真っ白になって何を話せば良いのか分からなくなってしまう。
中学は同じではない彼女のことは、入学式の時に意識し始めた。名前の順でならんでいた為、彼女が通路をはさんで斜め前に座っていた。知り合いだったのだろうか、隣の女子生徒と話していた時の素敵な笑顔に一瞬で撃ちぬかれてしまった。
こうして俺のクラスに来ることも多いので、姿を見ることはあれど、会話したことはまだない。せめて、一度くらいちゃんと会話をしてみたいものだ。
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