第2話

気のせいだろうか、雨のようなものが体に当たっている気がする。けれども、地面は濡れていないし、他の通行人達も傘を指していない。こんな時、一瞬で移動出来る力があればいいのに。そうしたら、学校の生き返りだけではなく、色々なところへ行くのだって楽にできる。つい、そんなことを考えていると自然と歩くペースが遅くなる。こういった妄想はとても楽しい。

 途中、公園が見え、ベンチが目に入った。せっかくだからゆっくり腰を据えて考えるか。すると、待っていましたと言わんばかりにバケツをひっくり返したような雨が降り始めてきた。

 暗く、厚い雲が空を覆い、轟音が聞こえてくる。まずいな。当然ベンチは雨ざらしなので、とりあえず雨だけでも防がなければ。すると公園に大きな木があることに気が付いた。完全に防ぐことは難しいだろうが、何もないよりはましだろうと、そそくさと移動する。ああ、本当に一瞬で移動できる力があればよいのに。

 すると目の前をフラッシュと轟音が襲い、尻餅をついて転んだ様な気がする。そのあたりからの記憶がない。立ち上がるとなんだか体がいつもと違っているように感じる。

 雷が落ちた木は、今にも崩れてきそうだったので、慌てて離れ、公園から飛び出した。


 自宅へ帰ると母から

「あんた傘持っていなかったでしょ」

「濡れなかった?お風呂は?」

「まっすぐ帰ってこられたの?」

と質問攻めにあう。曖昧な相槌で流し、ありがたくお風呂をいただくことにした。風呂場へ向かおうと部屋を出ようとすると

「さっき大きい音も聞こえたし、近くに落ちたかもしれないよ」

と母が小さな声で言った。

「あぁ、落ちたよ。しかも真上に」

などと口走ったらまた、母から質問攻めにあうに決まっている。面倒なことは避けようと聞こえないふりをした。

 風呂に入ろうとすると、下着を忘れていることに気が付いた。自分の部屋の扉を開けようとすると気配を感じた。母さんか。いや、まだリビングにいるはずだ。じゃぁ、誰だ。慎重にドアを開けると、勉強机で椅子を回転させ、アイツがくるくる廻っている。

 何者だ?アイツは。そぉっとドアを閉める。再びそぉっとドアを開けてみるとまだいる。どうしたものだろうか。こうなったら腹を括ってしまおう。深く息を吸い、思いっきりドアを開けた。

 しかし、部屋にアイツの姿はなく、見慣れたレイアウトが目の前にあるだけだった。下着をとり風呂へ入る。風呂から出て髪を乾かしながらあくびをする。

 どうしてプールの後等水に濡れた後シャワーを浴びると眠くなるのだろうか。ウトウトしていると瞼の裏にアイツの姿が浮かぶ。一体誰だったのだろうか。

 ダメだ。本当に眠くなってきたな。こういう時、部屋に一瞬で移動出来れば良いのに。大体今日だって、それが出来ていればこんな雨に濡れ、雷に撃たれ、眠くなるようなことはなかったのに。こう、呪文を唱えて、サッと移動する。

「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」

すると自分の部屋の天井からベッドに叩きつけられた。しかもなぜか真っ裸で。一瞬の出来事だった為、あっけにとられていると、アイツが俺の背中に乗っている。

「なにも早口言葉をえらばなくたっていいじゃないか」

そういうと背中から目の前に飛び降りてきた。

「いくらでもカッコイイ言葉があるじゃないか、掛け算九九の7の段とか」

カッコイイか?それ

「まぁ、いいや。他の超能力も使えるようになっているから」

そういうとそいつは再び目の前から姿を消した。

 朝、ベッドから体を起こす。開口一番に

「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」

 特に何も起こらない。まさか夢だったのではないだろうか。

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