第三話
オレはそう言って、彼女に向かって駆け出した。
「ッ!!」
彼女は一瞬驚いたような顔をしたがすぐに刀を構え直し俺を迎え撃とうとする。
「死になさいッ!」
一直線に走るオレを迎え撃ったのは、神速の突きだった。 それは余りにも恐ろしく、オレは眉間に迫ったその刃を目にして、背中から冷や汗が流れるのを感じる。
だが、だがそれは喜ばしいことだ。
なぜなら俺はずっとこの一撃を待ちながら彼女の攻撃を避けていたのだから……。
俺は、飛び散る水しぶきさえ止まって見えるほど集中し、彼女の攻撃終わり、その伸び切った腕のコートを右手で掴み、そしてそのまま背負い投げの要領で彼女の身体を放り投げた。
「キャッ!!」
思いっきり投げたことで、彼女は驚いた表情をしながら大きく後ろに吹っ飛び、俺の手元には彼女の羽織っていたコートだけが残った。
「はぁはぁ…変だな。ホントに忍者、クノイチのような格好をしているな。」
俺は息を整えながら、足元に落ちた彼女のコートを拾い上げた。
俺はコートを失いあらわになった、彼女の姿、服装を見て思わず
呟いた。その服はコートの下から見えていた通り、丈の短い和装の着物で、袖がなかった。
「ニンジャ…クノイチ? なにそれ…?」
彼女は、投げ飛ばされたせいか若干ふらつきながらも立ち上がろうとしていた。
「その格好しといて…マジかよ」
俺は思わず、また、ため息を吐いた。
ユディアンだのなんだの…
彼女の言うことがわからない俺、
そして俺の言葉がわからない彼女
お互いに世界観の摺り合わせができない。
俺は今ようやく確信が持てていた。
こいつは日本語を話している…。
たがそれにもかかわらず、互いの言葉を理解できない。世界が違うんだ
この世界はそう…異世界だ…。
俺は覚悟を決めて彼女コートを怪我をした手に巻まきながら、彼女に向き直り口を開いた。
「なぁ……あんた。あんたがなみなみならない理由で、オレを殺さなければならないことは…よくわかっている…でもね」
俺は、目の前にいる相手に話すというよりは、独り言を呟くようにうつむきながら言葉を吐いた。
「帰りたい場所が…もう一度会いたい人たちがいるんだ」
「はぁ?貴方……頭大丈ビッ…!!」
彼女が言葉を返し切るより先にオレは手に持っていたコートを彼女の顔面に投げつけた。
「もがっ……な、何をッ!……」
オレは彼女の言葉を待たずに、全身全霊をかけた全速力で洞窟の方へ駆けだした。
「ッ!ま、待ちなさいッ!!」
彼女は、俺の後を追ってくるが、俺はそれを気にすることなく洞窟の奥へ奥へと駆けていく。
「はぁ…はぁ…あの岩陰に…」
洞窟内にたどり着く頃には俺は息も絶え絶えで、もう動けないくらいに疲れていた。しかし、なんとか岩陰までたどり着き、身体を隠しながら呼吸を整える。
『フッ…ハハハ…あの天空狗の姉妹を撒くとは、存外やるではないか……。』
また俺の頭の中にあの謎の声が響いてきた。
「はぁ…はぁ…姉妹?あんた…あの女の子のことを知っているのか?」
『あぁそうだ。奴の名は【朔月黒音】朔月姉妹と言えば凄まじい才覚を持つ双子の姉妹が【天空狗族】の名で生まれたのだが…アイツは【仄暗い月雲】の称号を持つ妹の方だな…何でも奴らの中では現在最優の剣士らしい』
「はぁ……はぁ……最優の剣士?あの女の子が?」
『そうだ。それをまさかお前があの力を使わずに、ここまで撒くとはな…フフフ』
オレの中で響く声は、まるで嘲笑うかのように、不気味に笑った。
「はぁ……はぁ……あまり見くびるなよ…このまま最優だかなんだか知らないけど……このまま逃げ切ってやるぜ」
オレは、息を整えながら小さく独り言のようにそう呟き。これからどうやって彼女との鬼ごっこに勝とうか考えていた。
『ほう……なら試してみるか?お前がどれくらい逃げても無駄かを』
「なに〜?舐め腐りやがって」
俺は、そう呟きながらも、岩陰から、追ってくる彼女…朔月黒音の様子を伺う…。
洞窟の入口方向から、やってきた彼女はおそらく、オレと同じように走ってきたのだろうが、凄まじい体力を持っているのか息切れ一つしていないようだった。
だが、幸運にも彼女は周りを見渡しながら歩いているようで、その様子からどうやらオレのことを完全に見失っていることは、分かった。
「はぁ……はぁ……これは……ラッキーだな」
俺は、息を潜めて引き続き岩陰に身を隠した。
(…何が逃げても無駄だ…!このまま隠れてやり過ごしてやるぜ)
そう内心で息巻く俺。だがそんなオレにまたあの声の笑い声が響く。
『フフフ…安心しきっているところ悪いが…優れた天空狗族を相手にそんな簡単にはいかないぞ…ほらアイツの方を見てみろ』
「なに?」
俺は、声の主に言われるがまま、彼女の視線を追ってみた。するとそこには……
首と手を下におろし脱力したかのような奇妙な姿勢をとった…彼女の姿があった。
次の瞬間彼女の背中から、バキバキと骨が折れるような音が鳴り、彼女の背中からは、カラスのような漆黒の翼が生えていた。
更には、彼女がその翼を一度広げると、あたりは急に暗くなり、空は黒一面となり、彼女の背後には月が現れた。
「な…なんだよ…アレは」
『フム……ヤツも本気を出すようだな。天空狗族。奴らは《空を統べる者》だ……生まれたときから奴らは…《自分の空》と共にある…どうやら仄暗い月蜘蛛の称号は、奴のあの空からつけられたらしいな』
「そ、そんなのありかよ」
どうやらオレは昼夜すら意のままに操作できる化け物を相手していたらしい…。
加えて機械でできたあのSFチクッなマスクは、変形して開閉。首元に収納され彼女の口元が露出した。
非常に可愛らしく美しい顔が露わになったのだが、いかにも第2形態といった感じで、お披露目となったその顔は俺にとっては恐怖に他ならない。
「勘弁しろよ…」
俺は思わず声を漏らした
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