第11話 三谷一馬著 江戸吉原図聚 5/7

今回は三谷一馬著『江戸吉原図聚』です。

中公文庫の978-4122018822。

NDC分類では社会科学>社会・家庭生活の習俗に分類しています。


1.読前印象

 図聚というのは図録とかそういう意味。図集と違いはあるのかな。

 表紙を見ると暖簾に屋号的なものを染められたものが記載されている。遊郭は雅だとか粋みたいなものを競っているわけで、その屋号もかっこいいのだけど、この本けっこう分厚いので、当時流行った柄とかそういったものが記載されているんだろうか。そういえば江戸といっても結構長く、その間に吉原の中身も変遷している。その移り変わりがわかる資料だと嬉しいな。

 さぁ、張り切って開いてみよう~。


2.目次と前書きチェック

 ちょっと予想と違った。

 目次には遊女の買い方から廓内の設備の名前、営業方法や遊女の生活、年中行事と網羅的に記載されている。前書きにはこの本が江戸新吉原の全てを絵と解説によって再現すると書かれている。ようはビジュアル吉原図鑑! 時代としても安永から幕末までという丁度興味のある時代……の少し前か。

 幕末、というか黒船来航によってコレラが蔓延し、外国文化の流入に酔って江戸時代とは衛生観念が変化した。かつて梅毒は一度かかれば二度とかからないから安心だといって梅毒にかかった遊女は人気が出たりしたものの、明治に入ってその知識は徐々に払拭されて国が性病防止に駆黴院を整備し始める。そもそも当時の日本人の梅毒罹患率ってすごい高かったはず。

 それから遊女は黒船来航までは現代でいうところのみんなのアイドル的な存在だったのに、外国というか処女性を重要視するキリスト教が流入することによって次第に不潔な汚れたものという価値観に変化していく時代だったりする。そうやって外国勢は遊女を不潔だ野蛮だと避難する一方で外国人の遊女買いというのもブームになったりしていて、なんとなく日本人(アジア人)が素で下に見られてるなっていう文化の変遷が見られて面白いのです。

 でもなんとなく、それより少し前の江戸時代まで感のある目次。


3.中身

 これはっ資料としてとてもいいテンプレート!

 時代を限定したわかりやすい吉原ムーブがまとめられている。

 江戸時代って長くてさ。単純に江戸時代と言われてもその最初と最後で全然違ったりする。例えば女郎の身分関係なんだけど、江戸初期は高級女郎は太夫格子で下に見られていた散茶女郎(時期的には微妙にかぶる)が高級女郎に変遷する変化、というのは緩やかに行われているはずだけれど、じゃあ一時点を定めて不自然ではない世界観を定めるときにどこで区切ればいいか困ることが結構ある。そこが世界感ごとプリセットされているので、細かいことを考える必要がない。楽! 吉原に至る交通や郭の構造も書いてあるので遊郭を訪れるところから出ていくところまでのテンプレートがある。楽! しかも会話内容の例文があるから便利。

 小説で書くならめっちゃ便利と思う。でも時代感をはずれる、例えば江戸初期や明治に入ってからだとそのまま使えない部分も多そうなので、やっぱり調整は必要だろうけど。

 図というより絵もよい。浮世絵や当時の本から抜き出したと思われるイラストが所々に配置されているのだけれど、同じ名前なのに現代と異なるものが結構ある。例えば鏡餅のイラストは、菰樽6個の上に大三方を置き、菱餅を重ねてその上に鏡餅を飾り、その上に伊勢海老、橙は餅の横にある絵が描かれている。すごく大きい。これも当時の一般的なものではなく吉原の御祝儀的なものな気がするけれど、なんとなく文献で読んでいただけだと違いを気付けないところが挿絵があることでパッと見わかる。図集というよりはイラスト集な感じ。

 吉原や遊郭を書くには結構便利なのではなかろうか。

 そういえば表紙の暖簾は白か生成りっぽい色だけど、江戸時代は暖簾の色が業種によってだいたい決まっていた。白は薬屋とか菓子屋じゃなかっただろうか……? 正確にやるなら別途調べたほうがいいかもしれない。


4.結び

 これはすごく資料になる。個別の記述もさることながら、これ1冊でもう世界観つくっちゃえるところが……楽でいい! いちいち調べるの結構めんどくさいし。でも僕が書いてるのと絶妙に時代が違うんだよな……。時間があったらサラッと読もう。

 次回は司馬遼太郎著『街道をゆく 40 台湾紀行』です。

 台湾はすごい昔に1回だけ行ったことがある。でも主要なところには全然行ってない。

 ではまた明日! 多分!

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