第6話 村山修一著 山伏の歴史 5/2

今回は村山修一著『山伏の歴史』です。

塙書房の‎塙選書 71、978-4-8273-3071-7。

NDC分類では哲学>各宗に分類しています。

1970年の本で古い。


1.読前印象

 古いといっても僕は専門家ではないので、ここ50年の山伏学の進展というものがよくわからないのだな。新しい文献なんかは出てはいるのだろうけれど、修験道についてはまとまった知識は持ってない。でもコルシカ紀行よりよっぽど文字が進む。やっぱり認識差って大きい。

 さて、タイトルは山伏の『歴史』。歴史というとやっぱり役小角から始まって鎌倉時代あたりは既存宗教(たいてい仏教)との対立が発生して天狗としての側面を強め、明治時代のあたりで山伏禁止令によって仏教の傘下に置かれたけど独自色は強いっていうイメージ。

 山伏って各山各地方によって毛色が違う。僕が比較的詳しいのは村山>出羽三山で、他は殆ど知らないに等しい。熊野とかよくわからない。山伏に関してはちょっと書きたいところがあって独自路線で偏ってはいるのは認識している。

 さぁ、張り切って開いてみよう~。


2.目次と前書きチェック

 目次から重い。

 山伏の定義から始まり山に対する原始信仰、修験道の先駆けと密教と霊場との繋がり、そこからの発展と武士の時代やその後の時代的変化、といった内容で進む。ボリュームがすごい。

 とりあえずこれはとっとと中身に入るべし。いそいそ。


3.中身

 初っ端から核心をついている。

 山伏というものについては古来よりたくさんの本が出ているものの、そもそもの本質というのは文章に表される知的(賢いとかそういう意味ではなく)なものではなく、その体験を通じて訪れている体的なものである。だから山伏の行う行為に修験道というタグがつけられた後世の視点から教導的にしろ学術的にしろ分類されたものはその本質ではない。

 これはすっごくわかる。

 一度教科書から入ると教科書から外れた視点を持つというのはとても難しい。柳田國男が民俗学というものをまとめて以降、民俗学的な全てはその手法に則って全ての文化を規定してしまいがちだ。先駆者はその一つの分類の仕方を定義したという意味ではとても偉大だけれども、全てがその信者になってしまうと異なる視点を持って新たな分類方法を作り出すまたは受け入れられるのが困難となる現象が生じる。

 司馬遷が周シンパで殷を下げたのも然り、戦前の帝国主義では智謀家で朝鮮出兵も肯定されがちだったのに対して戦後は人誑しとか庶民から天下統一という側面で語られるようになったのも然り。

 逆にその辺を上手くパラダイムシフトすると大ヒットを飛ばせるんじゃないかなあと思っていて、最近上手くやったのがキングダムと思う。キングダムが出るまで秦は虎狼の地で嘘つきばっかりで信用してはいけないというのが定説で始皇帝も大抵の評判において悪辣だった。まあ秦王は代代悪辣なことをやってることは間違いないんだけどさ、呼び出した楚王を拘束して殺したりとか。そんなわけで一発ヒットを狙いましょう。

 閑話休題。歴史分野は文献至上主義なところがあって、往々にして様々な文献から合理的に推測される物事も文献に記載されていないというだけで大きく軽んじられる傾向がある。小説なら不明な範囲はその辺を好き勝手描けばいいと勝手に思っている。最近明らかに嘘を書いたのは少し気がとがめている。

 ……ここまで本と無関係なことをつらつら書いてきたけれど、修験道の教本等によらず国史や延喜式といった山伏の外側にある文献を幅広く紐解いてその姿を明らかにしようとする本です。


 最初から興味深いんだけど、ボリューム強いからとりあえず気になる一番最後の陰陽道と芸能のところに飛びます。

 陰陽道と修験道は相互に影響を与えあっている。そういえば反閇とかそうだった。陰陽道もまた奈良時代にいろいろなものをチャンポンした結果できあがったよくわからないものではあるので、その外側から姿を明らかにしたいのだけど、チャンポンすぎてよくわからない。

 それで各地で精力的に動き回る修験者はもともとの山岳信仰やら地域の特色をベースに神楽舞等の文化を組成していたという話で、知りたかったのがこの神楽舞のあたり。ピンポイントの記述はなかったけれど、修験道の神楽舞の位置づけなどがなんとなく把握できてきた。他に知りたかったのは鎌倉時代の天狗としてのイメージの醸成だったりするんだけど、これは先に太平記を読み直さないといけないかなって思ってる。


4.結び

 確かな知識って説得力強いと思う本でした。面で来る説得力があるというか、でもだからこそあんまり認識しすぎないほうがいいかなとも思いました(価値観が動かくなりそう)。

 修験道について調べるにはとてもよい本です。でも古い本なので、今のスタンダードはよくわからないな。

 次回は渡辺網也校注『宇治拾遺物語 下』です。

 下……? そのうち上に巡り合うことはあるのだろうか。

 ではまた明日! 多分!

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