第7話 渡辺網也校注 宇治拾遺物語 下 5/3

今回は渡辺網也校注『宇治拾遺物語 下』です。

岩波文庫、978-4003010525。

NDC分類では文学>小説.物語に分類しています。

下だと……?


1.読前印象

 宇治拾遺物語は鎌倉時代の説話集、今でいうところの日本昔話集みたいな存在で、比較的滑稽方面の物語がおさめられていた、記憶。今も残る有名な物語の古いVerもいくつかあって、たまに物語の変遷みたいな話に引用されていた、ような。

 書物としてはその存在は知っているけれど、開いて読んだことはない。説話集ってどうしたらいいんだとは思いつつ、張り切って開いてみよう~。

 なお、今回は下なので上は開きません。


2.目次と前書きチェック

 下には76の説話が入っているようだ。どれもそれなりに気になるけれど、全部読む時間はないわけでいくつか取り出して読んでみよう。

 興味があるのは安倍晴明に関する2つと遣唐使の子虎に食われる、始皇帝天竺から僧が来る、あたりかなあ。こうくくりだすとサザエさん感がある。タイトルに天皇や僧の名前なんかが具体的に入っているあたり、当時は物語(架空)と歴史(事実)という概念が明確に区別されてないよなとふと思った。


3.中身

 あ、これいわゆる古文だ。古文苦手な人はNGかもしれない。

 よく見れば訳注じゃなく校注だった件。古い文献を引いてくるときは原典を探すことが多いので、現代語でない本がそれなりにある。古文書の類は文字がよめないから現代フォントの校注はとてもありがたい。慣れもあるのかもしれないが、字が下手な人も結構いるのだよ……北斎の春画の地の文は面白いからがんばって読んだりするけど、あの人の字もたいていくねくねしている、タコが絡まったりしてるからくねくねしてても別にいい。


 『晴明を試情事』と『晴明かへるを殺事』について。

 これは掌握集というか、昔話といえるほどの展開もない軽いジョーク。この間こんなことがあってよハッハッハみたいな感じで晴明がプチドヤってる話。蛙の方は有名なやつだけど、出典は宇治拾遺だったのか。

 そういえばこの本ではせいめいと平仮名で出てるけど、この時点ではせいめいで定着してたのかな。他のコラムでも書いたけど、昔の本はルビなどないから名前の読みには疑義があるものなのだ。

 『遣唐使子、虎に食るる事』について。

 これも落ちなしやまなしな感じの話だが、太刀を持って走り寄ればたちを持ちてはしりよれば逃げもせず蹲るのをえにげていかでかひかがまりてゐたるを頭を打てば鯉の頭を割る様に割れた鯉のかしらをわるやうにわれぬ次にまた脇から食おうとつぎに又そばざまにくはんとて走り寄る背中を打つとはしりよるせなかをうてば背骨を打ち斬りくにゃくにゃになったせぼねを打きりてくたくたとなしつ

 鯉のように頭を真っ二つにした頭で脇腹から食おうと襲いかかってくる様は想像が困難でまるで3本目の腕がありそうな表現だなあ。公募に出したら落ちそうな気がするが、ともかく表現が笑える。

 『秦始皇天竺より来僧きんごくの事』について。

 始皇帝がこの僧を閉じ込めたとしたら正しく人心を惑わせないためなのだろう。

 念仏を唱えると釈迦尊が仏像サイズで現れねんじいりたるに尺釈佛丈六の御すがたにて紫やら黄金やらの光をピカピカさせながら紫磨黄金の光を放て空を飛んでやってきて空より渡来り給て牢の門を踏み破って僧を連れ去った此獄門をふみ破りてこの僧をとりてさり給ぬとかどこの特撮だよって感じで笑う。超合金みがある。


 小説の小ネタに使うにはここから何展開かしないといけない気はするが、どれも現代とは違う笑いが含まれていて興味深い。特に仏教説話はこのころよく天狗と戦ってたから、その流れを組んでるのかなと思う。いずれにしても面白いな。


4.結び

 思ったより小咄感がありました。どれも軽いジョーク的な寸法で、ライトに読むのに向く本だと思う。それから鎌倉時代ともなるとかなりの価値観差、つまり文化差があると思った。個人的にはそれぞれの話が一体どこから来ているのかがすごく気になる。

 次回は歴史読本臨時増刊82-3 特集 中国の名将と名参謀 歴史を動かした決断と智謀、です。

 これもまたどうしていいかよくわからないアレ。事典的なものの扱いは……面白そうなのをいくつか選ぶでいいよな。いや、正しく資料感はあるんだけど。

 ではまた明日! 多分!

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