第4話 星振りのデート前編

 あれはまだ転生したと自覚して間もない頃。

ある女の子が悩んでいた。

「しずく、わたしってほんとうにひとなの。」

 星野ヒカリ。

僕の幼なじみだ。

「どうしてそんなこと聞くの?。」

 ヒカリの表情が少し曇る。

理由はわかっている。

彼女は……一言で言えば天才。

それも習えばできる。

見ればできるほどの。

ゆえに周りからは憧れ……妬み……恐怖……軽蔑……あらゆる感情が自覚、無自覚関係なくヒカリに降り注いだ。

 そんな感情を多感な子供が感じられないはずもなく、彼女は悩んでいた。

「おとうさん、おかあさんはひとだっていってるけど……。」

 ヒカリは両親の表情や言葉の断片から自分がどう思われてるのか、微かに感じているのだろう……。

「大丈夫だよ。ヒカリは人だよ。」

「でも……っ!?。」

 否定することはわかっていた。

だから荒療治にした。

「しずく……?。」

「『契約』しよう。」

「『けいやく』って?。」

「ヒカリが『人』になるための。」

「『ひと』に……。」

 ヒカリの瞳に星が灯る。

表情は分かりやすく明るくなって、彼女は僕の手を取る。

「する。わたし、しずくと『けいやく』?する。」

「っ……!?。」

 ヒカリは勢いよく僕にキスをした。

僕と同じように……。


 それからは才能を活かした優等生っぷりを振りまいて皆に好かれるようになった。

これでいい……。

これでいいはずなんだ……。

なのに……。


(☆)


 ヒカリとのデートの日、当日。

僕は駅前広場のベンチで待っていた。

休日ともあってか、色んな人が行き交っている。

(みんな可愛い服着てるな〜……。)

 不思議なもので、家を出る前は可愛いと思って着た衣装も、外に出てしばらく経つと謎の劣等感が襲ってくる。

 今日の僕の衣装は、白いオフショルダーのトップスに、フリルが三層に重なった黒いミニスカート、そして調子にのって付けたガーターベルトとニーソックス。

劣等感とおまけで羞恥心が襲ってきている。

「あの子可愛くない?。」

「ちっちゃくて可愛い。」

 周りの小言が余計に恥ずかしさを冗長させる。

お願いだから早く来ておくれ……。

「君可愛いね。」

「なんですか……。」

「おぉ怖い怖い。」

 見た目だけなら良い感じのイケメンなのに、言動が危険信号なナンパっぽい人が僕に構ってくる。

「少し付き合えよ。」

「お断りします。」

「なっ!?。」

 こんな危ない人と付き合えなんて無理だし今日は先約がある。

「こっちが下手で出ればいい気になって。」

「痛っ……。」

 ナンパの人が力強く僕の腕を掴む。

腕にくい込んでくるその大きな手は僕に恐怖を与えるのには十分だった……。

「ぁ…………。」

 声が出ない……。

僕はこのまま無理やり連れ去られてしまうのだろうか……。

そう諦めてた時。

「痛ァ!?。」

「えっ……。」

 僕よりは大きいが、それでも男性と比べると細い腕がナンパの人の腕を掴んでいる。

「おま……痛たたた……。」

「『私の』雫に……何してるの……。」

「痛ァ……。」

 加勢に入ったのは……いうまでもなくヒカリだった。

そして腕を折る勢いで思いっきり力を入れている。

ちょっと待って。

それ折れる。

確実に折れるやつ。

「もういいよヒカリ。私はもう大丈夫だから……。」

「…………。そう……。」

 ヒカリはナンパの人を取り押さえた。

何故かはしならないけど、護身術を始めとした格闘技はほぼ網羅している。

ゆえに強い。


 ナンパの人を駅近くにいた警備員や警察官に移管して、仕切り直すことにした。

「ごめんね。雫。」

「あ……うん、大丈夫だよ。あはは……はぁ……。」

 ヒカリは少し緩い白いシャツにロングスカート丈の明るい茶色のジャンパースカートを着て来ていた。

そして可愛い。

スラッとした高身長なのもあるけど、それに見合うだけの圧倒的な顔。

「可愛い……。」

「雫……。」

 思わず声が出た。

いや、本当に可愛いし。

「もういいでしょ。行こうか、ヒカリ。」

「うん……、いいけど。本当に大丈夫なの?。」

 「大丈夫か」と言われたら嘘になる。

けど、せっかくヒカリのワガママのデートなのだ。

こんなことで無駄にしたくない。

「うん。私は大丈夫だから……。」

「そう……。」

 不安そうにしているヒカリの手を取って引く。

こうやって彼女を引っ張るのはいつぶりだろうか。

なんだか少しワクワクしてきた。

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