第5話 星振りのデート後編

 電車に乗って僕たちはデートの場所に向かう。

目的地は大型の複合商業施設。

普通のお店はもちろんのこと、レストランや映画館、ゲーセンも完備してあり、ある場所のがデートスポットとしても大変人気である。

 そんなところに来たらとりあえずウィンドウショッピングだ。

女の子に転生したからだろうか、以前よりも衣装にこだわりを持つようになっていた。

「雫にはこれが似合うじゃない。」

「う、うん……。」

 ヒカリがフリルがそれなりに付いた白いワンピースを手渡す。

いや……これは、僕よりもヒカリの方が似合うのでは……。

「いいよ。私には似合わないと思うし……。」

「…………そう…………。」

 ヒカリは手に取ったワンピースを持ってレジへ向かった。

明らかに小さいサイズなのだが、大丈夫なのだろうか……。

ついでと言わんばかりに下着や小物、バッグなどを買っていく。

「そんなにお金使って大丈夫?。」

「…………、大丈夫……。」

 明らかに元気の無い。

まるでこれが最後のような行動。

後悔のないようにと。


(☆)


 ある程度買い物をした僕たちは施設内にあるファミレスで昼食を食べることにした。

「ヒカリは何にする?。」

「…………。」

 メニュー表を手渡すも、反応がない。

思ってたよりも重症だなこれは……。

「はぁ……、仕方ない。」

 僕はテーブルに備え付けのタブレットでヒカリの分も含めて適当に注文することにした。

僕はカルボナーラ、ヒカリにはペペロンチーノ、そして二人で取り分け用にシーザーサラダ、それからドリンクバーも入れて注文ボタンを押した。

「飲み物取ってくるけど何かいる?。」

 黄昏気味のヒカリは相変わらず無言である。

(仕方ない)と思いまた適当に取ってくることにした。

それにしてもなんで今日に限って落ち込んでいるのだろうか……。

今朝のアレ……はたぶん関係ない。

だとすれば……。


ピッ!


 コップに飲み物が注ぎ終わって、僕はヒカリを元へ向かった。

僕はお茶系を、ヒカリには希釈させるやつもある乳製品をそれぞれ持ってきた。

「ヒカリ。持ってきたよ。」

「うん……、ありがとう……。」

 いつもなら喜んで受け取るのに、やっぱりそうか。

そしてしばらく経ってサラダやパスタがきたものの、これと言った会話もなく、ヒカリは噛み締めるように黙々と食べていた。


(☆)


 この施設の屋上には、広報も全力で推してるデートスポットがある。

金属の木々がある庭園。

木の実を模した電球がぶら下がっていて、夜にはファンタジー世界のような幻想ができる場所である。

 そんな庭園で街を見渡せる柵の前でヒカリは静かに黄昏ている。

風になびく長い髪がより悲壮感を僕に植え付ける。

「ヒカリ。何か悩んでない?。」

「別に何も……。」

 彼女はそう否定するけど、目はそう言ってない無い。

それもそのはず、今日でヒカリとの『契約』が切れるからだ。

「別に、もういいでしょ。」

 吐き捨てるようにヒカリは立ち去ろうとする。

僕はそんな彼女の腕を掴んで引き止める。

「良くない。少なくとも私にとっては。」

 そう良くない。

僕は何よりもヒカリの悲しむのを嫌う。

たとえソレの原因が僕自身だとしても。

「良いの……。これで……良いの……。」

 ならそんな泣きそうな顔で言わないで欲しい。

僕は無理やりヒカリを引き寄せた。

そして……。

「っ!?。」

 引き寄せた勢いそのままにヒカリにキスをする。

周りとか関係なく、ただ僕は……。

「これで『契約更新』。」

「もう……、ズルいよ。」

 ヒカリは僕に依存している。

おそらく彼女のアイデンティティの九割くらいは僕なのだろう。

独り立ちして欲しいのに、心のどこかではヒカリに離れて欲しくない。

そんな感情が渦巻く。

「雫。ありがとう。」

「うん。」

「『また』よろしくね。」

 だから僕はヒカリの手網を引く。

たとえそれが地獄への入口だったとしても……。

二人一緒なら……。

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