第22話 ボクと高砂さん

 《視点・ボク チャプター開始前》


 たまに自分語りをする小説が嫌いだという方がいるけれど、自分を語らず何を語るのを求めているのか理解には及んでいない。小説だけじゃない。漫画も映画も音楽も創作物は価値観の押しつけに過ぎない。だから自分語りをする小説が嫌いなのではなく、自分が好きなだけなのではないかと考えるようにした。誰かの価値観を押し付けられるのが嫌だから、言語化しやすい小説が槍玉に挙がるだけの話で。

 誰の事って面白山なんだけど。

 それは何故かを問うたところ、『考え方や感じ方が主人公だけの物に染まってしまうのが嫌』らしい。んじゃなんの為の主人公なんだよとツッコミたくもあったが。

 なんとなく解った。

 面白山は他人の介入を嫌う。

 確かに真実は自分だけのものだし。

 自分の歩んできた人生こそが真実だろう。

 其処に他者が入り込む余地は無い。

 故に。

 嫌なのだ。

 自身が何者かの影響を受けてしまうのが。


 「___。と、いうわけです。被害者のクラスメイトは被害者を虐めていました。その理由が下着姿での有料撮影会を先生に密告したとかなんだとかなんですが、その撮影会を企画したのがそもそも被害者です」

 『ん。そうかい、少年と少女はプール方面から証言を集めているわけだね。しかし下着姿の撮影会とはね。親御さんが知れば泣きたくなるだろうに』

 「これから誰が買い手だったのか、撮影者だったのかを調べようかと考えてます。十中八九、大人だとは思いますけど……」

 『ん。買い手が教員だとは思えないけど、気をつけなさい。相手が大人では君だとしても戦う事が出来ない場合がある。社会は大人に優しい。得意のカンフーで変態をボコボコにしたとして待つのは傷害事件の犯人という結末だ。鉄火場に立つ必要があるならば顔を隠す努力を忘れてはならないよ?』

 

 就寝前、共犯者との情報共有だった。

 なるほど。

 高砂さんがプールで遺体を見つけたのは銅像に突き刺す為のロープを探していた時に副次的なイベントで、か。

 遺体を屋根に吊るならば。

 水泳部がコースを指定する太いロープは適切だ。

 『ん。被害者の内臓かな。腐敗したガスでプールが泡立っていてね。臭いも死臭が凄まじかった』

 「だからガスマスクなんか身に着けていたんですね。防塵マスクを改造した簡易的な物ではありましたが」

 『ん。けどね、銅像の方はなんとかなりそうなんだ。ロープには最近擦れた痕があった。充分、証拠として使える筈だよ。本当ならロープに付着した塗料と屋根の塗料の照合を行いたいんだけどね』

 「解りました。串刺しは高砂さんに任せます。でも、困りましたね。撮影会の買い手は大人しかありえない。ボク等同世代の場合は買わずに騒ぎますし噂にもなりますから。それで変装無しでは大人と戦えないとなると……」

 『ん。困ったのは私もさ。銅像の方はね、恐らくは複数の部活動が協力しての犯行だ。だが私は用務員だからね。子供に聴き込みは出来ないし、子供とは戦えない』

 互いに互いの領分で困っていたわけか。

 高砂さんぐらい頭の回る方ならば生徒を倒したところで隠蔽工作も危なげなく行いそうだが。

 どうやら。

 戦えない、は。

 高砂さん自身が理由らしい。

 法的、道的ではなく。

 「現場、交換しましょうか?ボクなら生徒会長という立場を利用して部活動にも切込めます。副会長を護衛にすれば相手が関羽や張飛でない限りは大丈夫かと。アイツのカンフーはボクより上手いですから」

 『ん。なんだい。あの少女も少年と同じカンフー遣いなのかい。此処は日本だよ?もう少し日本の武道をだねえ?』

 「……高砂さんは戦えますか?性的なサービスだと言って良い。知られるのを嫌う買い手は恐らく殺す気で来ますよ?」

 『ん。名探偵は武術も修めているもんだよ。ホームズはバリツを、神宮寺三郎はボクシングをだ。任せなさい。現役では“鉄火場が専門だったのだから”ね。明日は朝イチで中華料理屋さんに君は向かうんだ。その後、これから渡すリストに記載された人物を調べて欲しい。中には柔道部や空手部もいる。充分、気をつけなさい』

 「鉄火場が、専門……?」

 『ん。それじゃおやすみ、少年。一人暮らしだからと夜ふかししないようにね。日付が変わる前には眠るように。暖かくしてね?秋の夜は冷えるよ?運動前は栄養のある食事より消化に良い物を食べるようにね?お粥とかが良いよ?起きたらコーヒーや紅茶ではなく白湯を飲むようにね?卵が完璧な栄養食だから卵粥にしなさいね?味付けは薄味でね?若いうちから高血圧症は怖いんだからさ?それから、それから___。』


 リアルで価値観の押しつけだった。

 確かにこれは。

 ムカつくかもしれない。

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