第18話 用務員の高砂
《物語はプールに沈んだ遺体を発見する辺りの高砂視点からになります。本編で手に入れたアイテムや経験値は共有になりますが、高砂パートは学生を相手に聴き込みが出来ない事とバディ切り替えによる戦闘がない事、戦闘難易度が上がる事にご注意ください》
某日。
職員会議。
浮足立つなんて話ではない。
皆が正常な精神ではない。
用務員として会議に参加はしていたが、これでは花壇の手入れをしていた方が生産的で効率的だ。保身の為に誰の責任かを擦り付け合うような会議に意味があるとは思えない。その上、教育委員会からも明日までに詳しい話を聴かせろなんて期日付きでせっつかれてはね。子供達の生活を守ろうとしている職員だっているだろう。子供達の学び舎を安全にしたいと願う職員だっているだろう。だけど大人は子供と違う。
彼等には卒業がない。
子供が巣立っても。
大人は巣にいるしかない。
学校に囚われている。
だからこそ学園生活というのは。
大人こそがメインなのかもしれないね。
(ん。さて困った。少年の不運な殺人をなんとかしなくてはならないのだが、これでは私も身動きが取れない。用務員もそうだが事務方まで呼び出しての職員会議。皆が贄になりたくなくて声を荒げるような場では抜け出す事がそのまま容疑者に繋がる。ん、ん)
本校生徒会長の彼は救わなくてはね。
彼の殺人こそ。
本来、職員会議の議題にしなくてはならない。未来ある若者を守るのが大人ならば、過ぎる程に優秀な若者を守るのは責務というものだ。でも大人はなかなかにどうして真理から離れて行くものであるし、不都合な真実ならば好都合な虚構に傾くのも致し方ないと思えてしまう。
生活がある。
家庭を持つ職員が大半だ。
サラリーを頂くのが戦いだ。
教職員の給与明細には真相究明手当とか真実追求手当とかは無い。
それを思えば、贅沢品なのか。
何があったかの真実も。
何故そうなったかの真理も。
(串刺し事件。まず間違いなく犯人は学校の関係者。だがその関係者をどの程度に絞るかの基準値は私の手元に無い。OBや保護者までを関係者に足すという視点を持つのは学校だけが社会である少年には出来ないだろう。酷ではあるけど、少年では内側からしか事件について動けない。しかも彼は真犯人。下手に動けば少年の潔白が消えてしまう)
動けないの理由の一つだ。
私が身勝手に動くは無理を通せば可能だが不自然でしかなく、不自然は疑念を生み出す。疑念は注目を呼び、注目が意味するのは監視だ。その監視はきっと遠くない未来、私ではなく少年に矛先が行き着く。
それでは意味がないからね。
だが。
迅速に警察を呼んだのは見事な判断だった。
素人に任せずプロに任せる。
自分の職場を部外者に任せる。
これはなかなか出来ない。
まあ呼ばれたから尚更私が動けなくなったのだがね。
「事件について、調査は警察が行うでしょう。教職員は生徒の授業進行を止めないよう如何に動くかを考えなくてはなりません。メンタルケアが必要になれば外部から専門のドクターを招聘するも視野に入れなくては」
会議に誰もが疲れ果てた時間帯。
彼女はそう言った。
隣に座る事務員に私は問う。
「誰だい?教員名簿にはなかったが?」
「高砂さんは知らないの無理ありませんけど、教育委員会の偉い人ですよ。警察を呼んだのも彼女です。おっかないんですよぉ?」
結んだ髪と強気な眼差し。
気の強そうなというか。
我の強そうな雰囲気。
歳は四十ぐらいか。
化粧がどれほど厚いかは知らないがね。
「ん。おっかないのかい。まあ、管理者や監視者なんてのは怖いと思われていなくては仕事にならないからね。正しいとも言える」
「高砂さんみたいな中年太りは気をつけなくてくださいよぉ?オヤジ嫌いで有名なんですから」
「ん?好きで中年太りになったわけじゃないさ。それは差別に繋がるねえ。ん。良くないねえ」
「奥さんとどっちが美人ですかぁ?」
「ん。亡くなった家内だね。足元にも及ばないよ。仕事も家事もバリバリこなすキャリアウーマンだったんだよ?若い頃は美男美女のオシドリ夫婦なんて呼ばれていた」
「高砂さんがですかぁ?今は見る影もないじゃないですかぁ。そういや奥さん亡くなられていたんでしたね、失礼しましたぁ」
「ん。若者の失礼も無礼も信頼の証さ」
教育委員会に連絡したのは校長だろう。
茶飲み友達だからというわけではないが。
あの即応性は称賛に値する。
「ん。君はこれからどうするんだい?」
「身の振り方は何も。ただ異常な事件が起きたんじゃ昇給も期待薄ですし、別の教育機関も探そうかなとは考えてますよぉ?」
「ん。まあ、そうなるよね。可哀想なのは教員だよ。このまま学校に残れば殺人事件の関係者だと後ろ指を指され、転勤してもやはり殺人事件の学校から来たんだと色眼鏡で視られる。彼等の教員免許には消えないシミが付いたんだから」
気の毒な話だ。
子供に振り回されるのが宿命だとは言え。
本当に気の毒な話だ。
「あ。会議終わるみたいです。私、まだ仕事残ってんですよね」
「ん。私もさ。用務員もなかなかに多忙でね」
それでは高砂パートを始めよう。
お付き合いくれるかな?
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