第16話 脚を踏み外すのは誰でも出来るが、転がり続けるのが難しい

 「君たちが最初からボク等を攻撃するつもりなのは解っていた。生徒会に不登校だった女子生徒がどんな学生生活を過ごしていたのかを話すという約束は羊頭狗肉ですらなく徹頭徹尾の嘘だったわけになる。でも別にそれは良いんだ。君たちこそがイジメの主犯だろうと考えたからこそ重い防具を着込み、優秀な護衛も付けてきた。良くないのは“ボク等を攻撃するつもりではなく殺すつもりだった”という事実だ」

 近所のファミレスで待機していた数名の女子生徒はボク等を見つけるやすぐさま店外に飛び出しグルリを囲んで来た。小さなポーチから出刃包丁を取り出し、腰溜めに構え、荒い息をしながら逃げないようにと。

 しかし。

 更に凄まじいのは面白山であり。

 殺意を向けられたと判断したならば即座に両手で弧を描くように構えつつ駒のように回転しながらの流麗な脚技でボコボコだった。ボクのような一点突破のカンフーじゃなく多数に特化したカンフー。

 それは見事な八卦掌だった。

 チャリンコとか看板とか吹っ飛んだり叩き付けられたりで粉々だしベコベコ。


 そのうち、面白山が如くなんてゲームが出るのかもしれない。


 しかし、また解らない事が増えた。

 ボクと面白山に殺される理由は存在しない。少なくとも吹っ飛んで垣根に頭から突っ込んでいる女子生徒達とは接点が無い。

 ふむ。

 これは本気で見当がつかない。

 其処で話が出来る状態の一人とボクはこのまま会話を続ける事にした。


 「君等は不登校の彼女についてを知られる事が殺人をすると決心するほどに嫌だった。連絡してから時間も経過していない。ならば兇器の包丁は自宅にあったものではなく購入したものだろう。すると此処でも謎が産まれるんだ。“不登校について教えて欲しいというだけで人を殺すには繋がらない”んだ。ボク等は不登校について知りたいだけで、プールで見つかった遺体について知りたいとは話していない。一般的な人情として殺人事件を隠す為なら仕方なく殺人事件を起こすとして。被害者の不登校は殺人事件と繋がるを意味してしまう。つまり、このまま黙ったままだと君はプールに遺体遺棄をするような度し難い変態になるけど良いのかな?」

 「……。イルミが裏切らなければ」

 「イルミというのは被害者女子の事?裏切るというのは?」

 「……。私達のことを先生に話したから」

 どうにも要領を得ない。

 面白山に殴られて意識が朦朧としているのか、単に話したくないだけなのか。

 このままではカンフーガールが暴れて殺人未遂罪をなんとかしました、だけになる。

 それに、イルミという少女の裏切り?

 先生に話すことが。

 裏切り……?

 「それは君たちが先生に言えないような事をしていた。という認識で良いのかな?」

 「……はい」

 何をしていたかは。

 ボクには話してくれないかもしれない。

 男子のボクには。

 なんというか。

 生徒会長だから怖いとか。

 先輩だから怖いとか。

 そんな感じじゃない。


 男だから、避けられている。


 考え過ぎか?

 この場合、考え過ぎというか自意識過剰な気もしたが。

 「んじゃ、頼むわ。面白山」

 「任せろや」

 悲鳴を挙げる後輩女子の首根っこを掴んで面白山は何処かに引き摺って行ってしまった。なんとも頼りになるカンフーガールであった。

 しかし。

 先生への密告が裏切りだとして。

 まだボクはそれが原因だとは思えない。


 偽犯人には。

 大人も。

 居たのだから。

 

 

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る