第15話 調査開始
例えばの話として人が人を殺してしまえば日常生活に戻れるだろうかという問答が行われていたならば、ボクは強い言葉と語気でノーだと主張する。人を殺すという行為は怖い。自分がそれまで積み上げてきた物が音を立てて崩れていくのが解るからだ。まだ齢十六でしかないボクであっても、その十六年には愛着があるし歴史があるしドラマがあるわけだし。その全てが一気に無くなれば誰だろうと恐怖を憶えるのは自然な事だろう。
まあ、世の中には得てきた物を失う感覚に酔う快楽殺人鬼なんかも存在するのだから人間という生物は計り知れないなと戦々恐々としなくてはならないのだがね。
同じく失うかもしれない感覚のギリギリを楽しむような感性を持つ奇形児も存在する。それがイジメを楽しむような連中になるのだが、なかなかどうして難しい。面白山にも話した通りヤキモチや嫉妬は本能的な反応であり煩悩ではない。除夜の鐘をフルスイングしたところで無くなる事は未来永劫ないと言い切れる。
本能だからと。
赦される事ではないが。
「良いのか?娘が夜の街に出るってのに、親父さんもお袋さんも不気味なぐらいに好意的だったけど……」
「お父さんは事件解決に協力したいっつー話ですし、お母さんは会長に協力したいっつー話ですし。良いんじゃねっすか?」
ボクと面白山は制服の中に防刃具を着込んで商店街を歩いていた。面白山は地元だろうしボクにとっても隣町なのでご近所さんから心配される声が珍しくなく、「むむむっ!こんな時間に異性不純交遊ですな!学生の本分は学業でありましょう!?」と騒いだ厳格気取りの変なオヤジは面白山が崩拳で吹き飛ば した。吹き飛んで、何度もゴロゴロ転がった。崩拳で良かった。風神拳を最速で何度も繰り出したなんてならずに。
意味もなく歩いているわけではない。
被害者宅に初めは行こうともしたのだが、御家族の心情を汲めば今が最善手ではない。其処で被害者と仲が良かったという女子生徒数名との待ち合わせ場所に向かっている。此処でも面白山のネームバリューが上手く機能した。後輩に人気なのである。このカンフーガールは。
「下須島くんに感謝だな。仕事が早い」
「ゲス野郎ですけどね。他人の恋愛をバカにして笑いにするなんてのは」
「言うなって。女子に苦手意識を持つ根暗な男子が青春時代に罹患する病気みたいなもんなんだ。あのマスコミ並みの情報収集能力は素直に褒めなくちゃ」
「ゲス野郎じゃねえか。マスコミ並みの情報収集能力なんか女子からしたら恐怖でしかねーぜ」
確かに、そうか。
この口の悪さと威勢の良さまでは下須島くんも調べる事は出来なかったようだが。よく告白したもんである。竹林で雌の虎に遭うようなもんだろうに。
「下須島くんのタレコミ。気付いたか?」
「被害者と仲良しだった女子生徒、でしょ?あんなん気付かないの自分が人気者だとか勘違いしてるハッピーヤッピーぐれえす」
ハッピーヤッピーなる人種をボクは知らない。
違うか。
産まれや肌の色、信仰や教義での区別は差別に繋がる。
ハッピーヤッピー人だとしたら。
導かなくては。
「だから武装してきたんだもんな……」
「一人で会わない時点で見え見えすね。何が仲良しグループだって話です」
杞憂であるを望むが。
仲良しグループこそが。
イジメの加害者。
その見立ては間違いあるまい。
「女子は基本的に群れで行動します。幾つかのグループに分かれて、不可侵条約を暗黙の了解で結んで。高校生でも基本そうす。中には私みたいに一匹狼なヤツもいますけど」
「被害者もそうだった。一匹狼というか、グループに属せなかった群れから逸れた迷子って感じだったのかもな」
「恐らくは。ですが不登校になる少し前、グループに属したそうですね。不良でも真面目でもない、目立ちもしないけど目立たなくもない、そんな子が集まるような集団だとか。そっからは何から何まで集団行動すね」
群れというか。
組合に近いのだろうか?
マフィアよりギルドに似ている。
なんとなくの印象ではあったが。
男子には無い文化だ。
無論、男子にもグループはあるが。
「普通、不登校になったら仲良しなら心配して自宅を訪ねたりするけど」
「一度もなかった、すね。だから決まりです。プールに沈めた犯人なのかは解りませんけどイジメだけは確定す」
サワサワサワ、と。
面白山の髪が揺れた。
スパークしているようにも錯覚した。
怒っている。
スーパー面白山になっても不思議じゃない。
「……暴れるのは自衛の場合と近隣住民に迷惑が及びそうな場合だけだからな?」
「ふーっ!ふーっ!ふーっ!」
ダメだ。
血が頭に上がってしまっている。
もう、虎というか狂犬だった。
仲良しグループ。
会話になれば良いのだが。
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