第14話 面白山の推理

 面白山優子。

 現在、高校二年生。

 生徒会副会長に推薦枠で当選。

 部活動は帰宅部。

 趣味はゲーム実況者のチャンネル視聴。

 生家は商店街で人気の中華料理店であり、父親と兄から北方中国拳法を伝授されている。その為に戦闘面でも頼りになると判断して良い。事実、柔道部の轟くんを死なせかけた腕前の持ち主だ。

 肩で揃えた髪と華奢な体格、可憐な容姿から清楚な女子高生だと勘違いする男子は多い。その実、かなりパワー寄りのキャラクタである。

 行動原理、判断基準、思考パターンの全てが向こう見ずというか脊髄反射だ。

 かの有名なカンフーマスターは「考えるな。感じるんだ」という名言を遺したが、ボクとしては少し考えて頂けると嬉しかった。

 だが。

 強い正義感と野生の当て感とでもいうべき直感力で本校生徒からの信頼は厚い。こう見えて意外と思慮深い人間である。

 なにより。

 頭の回転は本当に速い。

 名探偵という立ち位置は本来コイツのような人物が当て嵌まるのかもしれない。

 「ほんで、高砂さんの連絡ではなんだってんです?」

 「見つかった女子生徒は一年生。不登校だったらしい。死亡時期は一ヶ月前ぐらい。死因は溺死で間違いないとさ」

 「溺死です?んじゃ生きたままプールへ?」

 「何処かで溺れさせてからプールに運んだという可能性もあるけど、それには肺の内容物を調べなくちゃ解らない。其処はどうやっても検死待ちになる。ただそれを知る事はボク等には無理だわな」

 「会長が言うには犯人グループには大人も居るんでしょ?なら、クルマを使えば溺死体を運ぶのも難しくないすねえ」

 しかし。

 まだ面白山は知らない。

 Aの犯人グループ。

 Bの犯人。

 此等が同一犯だと決まったわけでもない。

 「不登校の理由はイジメなんでしょうけどウチの学校でイジメなんかありますかね?むちゃくちゃ弛い校風じゃないですか。落ち葉集めて焼き芋作って先生も事務方も呼んで皆で食べるようなとこすよ?」

 「裏では何してるか解らん。嫉妬とかヤキモチとかは本能的なモンだし」

 「特に女子は優秀でもイジメの対象になっからめんどくせえんすよね。おっぺえが大きいスタイルの良さを持つというだけでデブとか言われるような世界す」

 「比べるモンが男子より多いだろうからな」

 既に被害者が不登校になった原因究明は行わせてある。新聞部の下須島くんに頼んだら即座に引き受けてくれた。生徒会はその情報を元に調査を開始しなくてはならないし、これからは下須島くんを軸に行動を遂行することになるだろう。

 便利で優秀な変態だった。

 「イジメの加害者を問い詰めるにしてもボコボコにするにしても、何があったのかを知るには担任の先生とかクラスの同級生とか部活の仲間とかに聴き込むしかないす」

 「不可能だ。学校全体が封鎖されてる。一日に殺人事件が二件見つかってんだ。マスコミも集まるだろうし野次馬も来るのは考えるまでもない」 

 「加害者宅にカチコミかけるのもダメなんすかね?新聞部の下須島くんから個人情報は手に入れてるわけですし」

 「その徹底的な現場主義は頼もしいけど。ボク等は生徒会の役員であって、反社会的勢力の鉄砲玉じゃない。すぐさま捕まるぞ?」

 カチコミて。

 可愛い女子高生が言うセリフじゃない。

 力強くで解決するような問題でもない。

 面白山は食後のスイーツとしてママ白山が部屋に届けてくれたマーラーカオをパクパク食べながらウンウン唸る。ボクはといえば未だに口腔内に大家事を抱えていたので水をガブ飲みするを続けていた。

 多分、体内に疲労物質とかもう無い。

 必要な栄養分さえ汗になったかもしれん。

 「不思議なんすよ。さっきも言いましたけどイジメで直接殺害するような幼稚さは中学生までです。高校生になれば人を殺すリスクを理解出来ない筈はないんす。そりゃ池袋西口公園に居るカラーギャングとかなら少年少女も殺人事件とか起こすかもですけど」

 「何十年前の話をしてんだ……」

 マコっちゃんが活躍したの、親世代である。

 トラブルハンターとしてボク等は同じような事をしているわけだが。

 あと、池袋西口公園は既にギャングの溜まり場ではなくファミリーが集うような憩いの場に変わったのも付け加えよう。

 「ですから、アウトローな方々でない限り殺人事件なんか子供は起こせないんです。これは池袋西口公園に屯するようなカラーギャングの特権だとさえ言えます。普通の高校生が溺死にさせるなんて出来ないと思うんす。池袋西口公園組でもなければ」

 「面白山は池袋西口公園に何か恨みでもあるの……?」

 やけに擦る面白山であった。

 ただ、確かに言いたい事は理解した。

 殺す、は。

 普通の高校生には無理だ。

 普通の感性では無理だ。

 畸形の高校生でもない限り。

 「それに加えて、加害者側の罪の意識が見受けられないのがポイントす。人を殺せば噂にもなるでしょう。なのに下須島くんですら掴めていなかった。つまりこれ、“加害者側は殺したと認識していない”と考える事が出来ませんか?」

 「……被害者は自殺した、と?」

 直接殺害していなければ。

 罪の意識を持てない?

 それは畸形の高校生と何が違う?

 でも、そんなモンなのかもしれない。

 あの下須島くんが把握していないのだ。

 罪の意識が無いから。

 外に漏れる事も無い。

 「無論。自殺だけではなく事故死の可能性もありますけどね。どっこい。女子はイジメの文化を持つけれど怒られるのは嫌なのです。一方的に攻撃するのが楽しいのです。被害者がイジメを理由に入水自殺とかなんかしたとすれば、必ずイジメを捜査されると考えるでしょう。だから、隠した。プールに。授業で使わなくなったから見つからないとして。つまり自殺したのも学校ですよね。大急ぎで遺体を隠さなくちゃなんですから」

 「……だが、その論拠に明確な証拠がない。そもそも学校で入水自殺をするなんて無理じゃないか?」

 面白山の推理は。

 そうだと頷く事も出来る。

 だが、やはり明確な証拠がない。

 これでは犯人が逃げてしまう。

 詰めろ、には。

 まだ駒が足りない。

 

 「だから調べなくちゃです。死因が溺死なのもミシュランの餃子マン状態なんですから解らないでしょ?最初の串刺しは解らなくとも、プールは私達でもなんとかなるす。なんとかなるなら、動くのが吉です」

 「そうなるかぁ……」


 ボク等は動くを選択した。

 この時点で。

 被害者の親御さん。

 彼等は犯人グループの一味なのだろうなとの予想はしていた。面白山の推理も予測に過ぎない。外れて欲しい予測ばかりだ。

 この世の中は。

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