第10話
高砂さんからメッセージが入ったのはボクが面白山と合流してすぐの事になる。
『少年。悪い知らせと更に悪い知らせがある。一度、私と合流出来ないだろうか?』
との事だ。
バッドニュースしかないと聴かされ誰が合流したいものかとも思ったが、此方が得た証言も伝えなくてはならない。生徒会役員は全校生徒の下校を待ってから最後に下校だとの指示もあったので、面白山を護るという意味でも大人が近くにいればともの算段だった。
『ボクは生徒会室に居ます。副会長の女子生徒と一緒ですけど』
『用務員が校舎内に入るには理由が必要になる。生徒会室の蛍光灯を今すぐ破壊して欲しい』
との事だ。
其処で面白山に用務員さんを喚ぶ為にも蛍光灯を割ってくれと頼んだら楽しそうだとの理由で竹箒を大上段に構え、見事な唐竹割を披露してくれた。すぐに職員室に連絡をし割れた蛍光灯は危険なので用務員さんに任せるようにと指示が出る。
ガラガラと。
生徒会室の扉を開けて入ってきた高砂さん。
作業服にブルゾン。
掃除用具と替えの蛍光灯。
警棒と安全靴。
安全ヘルメットとガスマスクを装備して。
「……会長。いつから用務員さんは変態趣味に?面白山は面白い事は好きですけど、見た目や名前での出オチは笑いが拡がらないので好きくないですよ?」
「……用務員の高砂さんは味方だ。見た目と雰囲気が変態だけど」
手早く蛍光灯を交換し掃除もしてくれる辺りは普通の用務員だったが、作業をしながらもボク等は手に入れた情報や証言内容を共有。面白山にはボクが真犯人であるという事実だけを伏せて事の顛末を伝えた。
本当であれば。
真犯人も伝えなくてはならない。
画竜点睛を欠く、ではないが。
たが、まだ。
ボクが真犯人という真相は。
龍の瞳ではなく、蛇足に過ぎないだろう。
「少年、すまなかったね。備品を壊すような頼み事をしてしまって。そっちの少女も余計な手間をかけさせてしまい申し訳ない」
「面白山は面白いと判断したので会長チームに加わりますけど、高砂さんは女子の本能で危機感を覚えます。半径五メートル以内には近付かないでくださいね!」
辛辣だった。
口の悪さというか。
攻撃的というか。
しかし高砂さんは何か切羽詰まったかのような眼をして面白山の口の悪さにも反応しない。
ガスマスク越しでも解る。
焦っているというか、憔悴していた。
「じゃあ、合流出来たし悪い知らせから聴いても良いすか?」
「ん。その前に敗北条件の確認だ。少年はどうなればこの物語、バッドエンドというかゲームオーバーだと考えている?」
ふむ。
ボクが真犯人だとバレる事、ではない。
そもそも自首を考えていた。
ならば偽犯人を取逃すか偽犯人に行き着く事が出来ないなのかとも考えたが、この場合が負けになるのは時間制限があってこそだ。そしてこの事件に時間制限は無い。時間を掛ければ必ず解る。日本の警察は世界一優秀だし、世界一犯罪者を許さない。
「……ふ〜む。ボク等の敗北条件かあ」
「ん。新聞部の下須島少年が答えを話していたじゃないか。少年は生徒会長。本校の代表であり、全生徒の顔役だ。ならば少年は生徒を護る責任がある」
「下須島くんということは、この事件を連続殺人事件にしない、ですね?」
「ん。当たりだ。連続殺人事件になった時点で我々は敗北が決定する。此処までを前提として理解して欲しい。聡い少年も、元気な少女も」
ボクは何故こんな前提を話したのかを思案し黙り込み、面白山は眼をキラキラさせて何度も頷いた。急造のコンビだが高砂さんは意味の無い事を言わないぐらいは知っている。
なら。
今更、こんな前提を話すというのは__。
「別の死体が見つかった、ですか……?」
「ん。流石だ、少年。まだ誰にも知られていないけれどね、見つかるのは時間の問題だろう。悪い知らせがこれだ。『我々は敗北した』という話だね」
なんつーこった。
これでは日常生活なんか程遠い。
ボク等全校生徒の進路にも確実に悪影響なのも間違いがない。
敗北。
これは正しく、敗北だった。
「でもでも!なんで高砂さんは死体を見つけてすぐに騒がなかったんですか?高砂さんが証拠を探す為にウロウロしてたっつーのは解りましたけど!もしかしたらまだ生きているかもしれねーってのに!」
「ん。良い質問だね、元気な少女。それがね、更に悪い知らせというヤツさ。先程、少年から貰った証言内容を照らし合わせても事件概要が合致する。連続殺人事件なのかどうかはまだ解らないが、関連する殺人事件なのは間違いがない」
「まさか、また『何処からも視えない死角』、が犯行現場なのか……?」
そうだとしたら設計に欠陥ありだ。
そうだとしたら配置に問題ありだ。
学生なんかコンビニ裏でタバコ吸うような未熟な生き物なんだぞ。
「ん。ならば、更に悪い知らせだ。この発見報告は生徒会長である少年が先生方に伝えた方が良い。校内巡回をしていてたまたま見つけた、とね。
女子生徒がね、プールに沈められていた。
既に写真は撮影しているが、聡い少年も元気な少女も見ないほうがいい」
そうして。
二人目の遺体が見つかってしまった。
何故こんな事をしたのかは解らない。
本当に、何もかもが解らない。
ボクは眉を顰め。
面白山さえ息を飲んだ。
凄惨な事件はどう物語を拡げていくのか。
そんなのは誰にも解らない。
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