第9話 孤独な加害者と蠱毒の加害者

 面白山は面白くないと何度も不満を垂れながら作成して貰った欠席者のリストを手にしたボクが次に向かったのは生徒内の噂話や与太話、痴話喧嘩までを集めて記事にしている新聞部。部外者とは協力しない排他的で閉鎖的だと知られる新聞部ではあったが、普段の素行の悪さとモラルの無い取材を指摘し部活動の禁止と内申点への悪影響をチラつかせたらすぐさま協力を申し出てくれた。要は先生にチクるぞコノヤローと話したら掌を返してくれた。


 生徒会長が使える武器は職権乱用だけだ。

 生徒に対して有効打なのであれば。

 何度でも使っていく。

 何でも利用していく。


 「犯人が誰なのかは知らないでゲス。噂というか話題にもなってないでゲスね」

 「下須島くん、なんでも良いんだ。この事件について関係のあるような証言を何処からか拾って来れないか?ムリヤリ口癖を○○でゲスにしてキャラを立てようと必死な下須島くん。最近、ウチの面白山からフラレた下須島くん」

 「面白山さんは関係ねーだろ!」

 「殺人事件の早期解決を面白山も望んでいるんだ。彼女が平穏な学生生活を取り戻す為にも気合いを入れて情報を集めては貰えないか?」

 生徒会長が使える武器に副会長をダシに使うが追加された瞬間だった。確かに見た目だけは美少女な面白山は校内にファンが多い。

 なんでも使う。

 使える駒は。

 「SNSで事件について発信すんなって学校側から厳しい罰則規定付きで言われてるからか、ネットの海にも無いんでゲスよ。そもそも地方自治体の何か取り柄があるわけでもない半端な進学校でゲスからね。世間の注目度も低いでゲス」

 「ご近所の大人が発信したような物は何かないのか?」

 「パトカーが集まって生徒が集団下校を始めたってんで、事件が起きたのかもしれないと勘繰る方は少なくないでゲスね。けど、それだけでゲス」

 学校側の対応が早かったのだろう。 

 確かにパトカーが集まりはしたが、不必要に騒ぎにはなっていなかった。凄惨な殺人事件なんか田舎では格好の話題の種。人が集まらない筈がないのだが。

 しかし困った。

 新聞部に頼っても証言が得られないとなれば、此処から先はボクが聴き込みをしなくてはならなくなる。

 本来、真犯人であるボクはそんなに動いてはいけない。

 座して待つ、ではないが。

 少なくともウロウロするべきではない。

 何処に偽犯人がいるのか解らないなら、尚更。

 「下須島くん、面白山は犯人がグループだと考えてたんだけど。下須島くんもそう思う?!」

 「逆にそれしかない、と思うでゲス。中庭で何をしているのかは二階の廊下から見下ろしたりすれば一発でバレるというのに、銅像に突き刺すなんていうのは」

 「音は何も聴こえなかったのかな?犯行には大きな音が出る筈だろ?」

 「窓を開けっ放しにしていたら聴こえそうだとは思うゲスが、空調完備で窓を開けるような生徒がいるゲスかね?昭和や平成初期の木造建築なら外の音も拾うかも知れないゲスけど」

 「犯行時の音を拾う事もない、か……」

 「加えて中庭は背の高い植物が一階廊下を塞いでるゲスからね。銅像がある位置が真ん中ではないとはいっても真ん中に近い位置ではあるゲスし、『あの場所。一階からは完璧に死角になってる』んゲスよ。だから男女が乳繰り合うスポットにもなってるゲス。其処を撮影して新聞記事にされたくなかったら乳繰りスポットを他にも教えろという司法取引が出来るんゲスがな。ゲースゲスゲスゲス!」

 知りたくなかった。

 普通に盗撮だし。

 普通に恐喝だし。

 普通に犯罪だ。

 が、これは有用な証言じゃないのか?


 銅像の位置は一階からは完璧に死角。


 これは。

 高砂さんに伝えるべき証言だと判断していいんじゃないか?

 「なら、今後中庭で乳繰りマンボーは踊れなくなるわけか」

 「今の子、乳繰りマンボー絶対に知らないと思うゲスけど……」

 「二階からも完全に銅像付近が視えるわけじゃないもんなあ。多種多様な植物が多過ぎて軽いジャングルみたいになってるし」

 「だから、犯行音に気付かないのも不自然じゃないと思うゲス。大きな音が出たとしても業者さんが入って中庭の手入れをしているのかなぐらいに受け取るのかなって思うゲス」

 そりゃそうか。

 大きな音がしたとして。

 それがまさか殺人だとは考えまい。

 まあ。

 何度も言うが、殺したのはボクなのだが。

 「犯人が多数だとして、隠しきれるもんなのか?仲間割れとかなんか起こりそうなもんだと思うけど?下須島くんじゃないけど司法取引とかをチラつかせたら」

 「起こるゲスね。時間が経過すればするほどに罪は重い罰になるもんでゲス。絶対に犯人達の中で“誰が一番悪いのか。誰が言い出したのか”の争いとかは起こるゲス」

 「そりゃ、そうか……」

 共犯でも全てが同じ形ではないのか。

 ボクの共犯者は。

 少なくとも、罰を自ら引き受けようとしていた。

 真意は解らない。

 ただ、偽犯人側の共犯関係は何処か歪で何処か不安感があるなと感じた。不安定というか不完全というか、“何故銅像を選んだ”のかが解らない。下須島くんの話す隠れた乳繰りスポットだから世間様に公表させます、のような正義感が理由だとしたら幼稚だ。これもまた下須島くんが話す通り、乳繰りマンボーを踊るスポットは他にもある。よしんば世間に公表したところで立ち入り禁止エリアが増えるだけであり、そうすればまた別の乳繰りスポットを探すように生徒は動く。

 思えば。

 真の犯行現場。

 体育館裏も、また。

 死角だらけの乳繰りスポットだったわけか。

 「ところで会長は何故、探偵ごっこをしてるでゲス?面白山さんに頼まれたゲスか?」

 「こんなんでも生徒会長だからね。警察に提出出来るような情報の精査と収集だよ」

 「良かったでゲス。面白山さんと仲良しなんて言われたら此処でブチ殺してたゲスから」

 「バイオレンス過ぎるだろ……」

 フラレても想い続ける辺りは好感を持てたが、なんとも武闘派な純情ロマンチカだった。面白山は面白山で生粋の不真面目さが災いして色恋沙汰にはならない。見た目は可憐でも、性格はカオス寄りなのだ。純情ロマンチカ下須島くんとの相性は良くない。

 「犯人が多数だとして。どんな繋がりなんだろうな?人間を知られず銅像に突き刺すなんて大人の協力も必要になるわけだろ?」

 「学校には色んなコミュニティが存在するってモンでゲスからね。女子のグループチャットには若い女教師も参加して流行りのスイーツとかの情報を共有したり、なんてのもあるゲス。『会長が言うような生徒と教職員が混ざるグループは珍しくない』でゲスよ。他にも生徒と一緒にゲームを楽しむコミュニティとか、進学にガチなコミュニティとか、色々でゲス」

 そう、なのか。

 ならば足跡に大人の物があっても。

 それは。

 必然だったのか。

 しかし。

 犯罪を咎めず。

 しかも。

 協力する理由とはなんだ?

 だが、これも有用な証言になる。


 大人が子供と混ざるグループは存在する。


 高砂さんなら。

 既に知っているかもだが。

 「会長。探偵ごっこをする理由も理解出来るゲスけど、俺はこれが連続殺人になるというのが怖いでゲス。面白山さんの近くに居てあげて欲しいでゲス。女子のグループは可愛いというだけで人を殺す。今回の事件で連鎖的に何か起こらないとも限らないゲスから」

 「……下須島くん、漢前じゃん」

 「……フラレても好きな女子を護りたいと祈る権利まで失うわけではないゲスからね」

 確かに。

 それに下須島くんが危惧するのは尤もだ。

 もし、二人目が出たら。

 ボク等は日常には戻れない。

 新聞部にお礼をして再度生徒会室へ。

 面白山や下須島くんが此処で殺されれば、ミステリとして定石の展開として盛り上がったのだろうが。

 殺人イベントは何も起こらなかった。

 面白山当人はまたコイツめんどくせえ事を頼むつもりかと警戒感を高めていたが。

 ボクはあの純情ロマンチカというか侍のような新聞部の頼みを請け負った。


 当然として。

 下須島くん、面白山。

 この二人が偽犯人である可能性は消えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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