第8話
高砂さんが言わなかっただけで、確定している条件はもう一つある。
それはミステリ小説として必須項目で。
それは事件捜査として必須条件で。
それは情景描写として必須科目であった。
時間、である。
ボクが人を刺したのは授業中。
お昼休みが終わったばかりの五時限目。
授業を抜け出したボクは体育館裏に呼び出され、そして高砂さんと鬼ごっこをした。振り出しに戻るように犯行現場に戻ったのが六限目。当然、一般生徒は授業中だった。
つまり授業に出席していた生徒にはアリバイがある。物理的に不可能だ。進学校としてのレベルは高くないとはいえども進学校。出入り自由な授業など存在しないし、出入り自由な校風でもない。それこそ生活指導の先生にでも見つかれば殴られるかもしれないぐらいには規律ある我が校。皆で抜け出して遺体を移動させる、が可能性としてはゼロに近い。
ゼロに近いと。
ゼロに等しいでは。
意味合いが変わるのだが。
今はまず。
マイノリティは切捨てていい。
常識の範囲として。
可能性を潰せれば。
「つまり会長は各クラスの六限目の出席率を調べて欲しいってんです?」
「ああ。出席していればシロだ。アリバイがあるというか犯行が不可能だからな。同時に欠席者のリストも頼む。何かしら共通点があるかもしれない」
「めんどくせっすね」
「頼むよ。そう言わず」
「かったりいっすね」
「頼むよ。そうゴネず」
「やってらんねっすね」
「頼むよ。そう腐らず」
「タダ働きしたくないすね」
「頼むよ。そう強請らず」
副会長の彼女。
面白山優子は嫌々で動いてくれた。
これは普通に生徒会長であるボクの職権乱用だった。
しかし、使えるものは何でも使わなくてはなるまい。
「不肖。この面白山、全く面白くないです。好きなゲーム実況者がライブをするってんで生徒会室でサボってましたのに!」
「安心してくれ。面白山という姓じゃないボクも全く面白くないから」
「会長が面白くない事は私の何を担保すると言うのでしょうか?『仲間がいるよ良かったね?』なんてのが作用するのはテストの成績が悪かった時ぐらいでしょう?つまりテストの成績という問題を共有した場合のみです!」
「そりゃ、確かにな……」
時間とアリバイ。
これは高砂さんが話す証言とは異なるが集める事が出来るならば集めておきたい。そしてもし授業に出ていない生徒に共通点が見つかれば、その共通点から偽犯人グループを特定も可能になるかもしれない。
希望的観測ではあったが。
楽観的でないだけ良しとしよう。
「会長はちなみに何故此処に?ゲーム実況を観るわけでもないのでしょう?」
「あんな事件が起こったんだ。生徒会長として事件解決に有益な情報があるならば警察に提出もしなくてはならない」
人を殺しちゃって、その上で遺体が銅像に突き刺さった状態で見つかって。更に誰が犯人か解らないから。
とは、言わない。
言える筈がない。
「確かにウチの学校、全クラスの出席とか欠席とかPCで確認出来ますもんね。ですが生徒会が其処までやる必要はあるのでしょうか?」
「警察も生徒に意見を聴きたいと考える。そうなれば真っ先に生徒会へとやって来る。その時に協力するかしないかで内申点に響いたりもするかもしれない」
「こんな事件が起こるような学校に内申もクソも無いですよ。遺体を銅像に突き刺すって一人じゃ出来ないわけでしょ?何人も力を合わせて可能な犯行なわけです。テストの成績という問題を共有した場合のみだという先程の意見は撤回します。『共通の殺したい相手がいれば、共通の殺したい相手という問題を共有していれば、仲間が居たら嬉しい』のかも知れないすね。まずそんな奇形の感受性を持つ生徒がいる時点で内申点なんかドブに浸かったに等しいかと!」
辛辣だった。
辛辣だったが。
真実だった。
でも確かにそうか。
ボクが殺した奴は他にも殺意を持たれていて、しかもそれが不特定多数だった場合は被害者に向けた殺意が共通点になるのか。
共通したところで。
本当に実行するとは、思えなかったが。
「こんな事は言いたくないですけど。被害者はかなりの嫌われ者というかでしたよ?」
「嫌われたからと殺されて仕方ないとはならんだろ……」
殺したのは。
ボクなんだがね。
「全くもうですよ、全くもう!面白山は面白くない!」
「頼むよ。ボクはファイリングとかレジュメとか作らなくちゃならないから」
ぶーぶーと文句を言いながら。
彼女。
面白山はリストを作成してくれた。
六限目の欠席者は全校二十人。
共通点は。
解らなかった。
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