第4話 多数を集めるという正義
当然、騒ぎになった。
遺体が消えたから、ではない。
遺体が見つかったからだ。
校舎中庭の偉い人の銅像。
其処に。
突き刺さっていた。
喧々轟々で阿鼻叫喚の日常の中で。
ボクと高砂さんだけが。
黙ったまま。
動けないまま。
本来の殺害現場で。
中庭を眺めていた。
「……どういう事です?」
「ん。其処を征く少年が刺殺した生徒を何者かが運び出し、中庭の銅像に突き刺したという事だろうね」
「……誰がそんな事を」
「ん。“誰が”という謎を解決するには手持ちのカードがまるで無い。加えて“どうやって”を推測する為のピースも無い。少年。今現時点での我々が出来るのは“何故そんな事を”だけに絞られる。ん?解るかな?」
その通りだった。
誰が、は解らない。
体育館裏は見つかり難いとはいえど校舎内に刺殺体があるのだから、誰かは見つけるかもしれない。そして見つけた人間が何か行動を起こしたとして、それは有り得ない話ではなかった。
そして、どうやっても解らない。
銅像に突き刺すならば当然として『銅像より高い位置』から遺体を落とすか叩きつけるしかない。銅像は三メートル近くの高さだ。尚且つ、銅像の真上は吹き抜けであり高層の廊下から突き落としたとしても銅像には届かない。今のところというか、どうやって遺体を銅像に突き刺したのかは今後も解りそうにない。
ならば。
何故、そんな事をしたのかの推察。
これならば。
当たらずとも、犯人の行動を予測出来るのかもしれない。
犯人はボクなんだけど。
「ん。まずは状況の整理だ。絶対に動かない確定した事実が二つある。“少年と高砂は犯人じゃない”というのが一つ。そりゃそうだろう?私と少年は鬼ごっこをしていたのだから、悪戯に参加は出来ない。物理的に、位置学的にね」
「……絶対に動かない確定した事実。なら、あと一つは“真犯人はボクである”とかですか?」
「ん?それは確定した事実ではなく与えられた条件だというべきだろうね、少年。遺体を動かした人物を便宜的に偽犯人と呼称してしまうけれど、“偽犯人は学校の関係者である”というのが二つ目の確定した事実だ。今のご時世、危機管理の面で学校法人は部外者が入るには面倒な手続きが必要になる。親御さんですらね」
そうか。
そう言われるとそうだ。
学校の関係者以外、遺体を動かすのは不可能になる。たまたま業者さんが入っていて、ウッカリして遺体を中庭の銅像に突き刺した可能性さえない。そんな業者さんがいたらすぐさま射殺して頂きたいものであるが。
しかしそうなると、更に何故こんなことをしたのかの疑問は深度を増した。
何故。
隠れていた遺体を目立つ場に移した?
「……あのまま隠していれば、ボクが自首をして事件は解決した筈なんですけど。その線は消された。『これじゃ自首出来ない』状況になっちゃいましたが」
「ん。殺した後に銅像に突き刺しました、ゴメンなさい。ではね。自首したところで反省する意思は無いと看做されるだろう。遺体損壊を行う殺人犯の自首が疑問視され警戒対象になるのと同じだ」
「……罪を償う、だけならば自首しても良いかなとは思うんですが。やってもいない事まで償うのは嫌でして……」
「ん。まあ、それは追々の話さ。遺体を偽犯人が見つけ、なんらかの事情で持ち去った。そして中庭の銅像に突き刺した。この事件を難しくしているのはね、“白昼堂々の犯行だから”なんだ。我々の他にも生徒も職員もいる。そんな中での犯行だから、高砂は困っている」
「でも遺体はそんな簡単に見つかりますか?此処、壁と体育館に挟まれてて死角だらけですよ?」
「少年が垂らした血痕を追えばいい」
「!」
ボクのミスだった。
ミスというか、不可抗力ではあるが。
確かに、遺体を見つけるだけならば。
簡単だ。
追っかければ良い。
血痕をだ。
「ボクと高砂さんだけの事件だった筈なのに、偽犯人はなんで……?」
「多数を揃える。これはね、本質を捻じ曲げる事を可能とする。美味しくないラーメン屋さんでも人気だと票を集めれば人気店だと思われる。面白くない映画でも人気だと票を集めれば傑作になる。それと同じかもしれない。民衆の印象は本質を変えるんだ」
「話が視えませんが……?」
「少年。君は単なる人殺しから、遺体損壊を楽しむ快楽殺人鬼にレベルアップしたという事さ。世間様の印象はね」
冗談じゃなかった。
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