第3話 消えた遺体

 とりあえず高砂さんが死にそうだったのでボクは彼と合流し事件現場に戻る事にした。幾ら何でも遺体をそのままにはしておけない。体育館裏には誰も来ないとは思うので他の誰かに見つかって手厚く遺体安置所に送られるなんて話にもなるまい。それでは余りにも不憫だ。命を奪っているからこそ尚更にそう感じるし、殊更にそう考えた。


 「ん。其処征く少年。気づいているかい?君が残した血痕が綺麗に消えているね。私と少年はそんなに長く鬼ごっこをしていたのだとは思わなかったよ。なんせこの名探偵・高砂は必死だったからね。ん?ん?」

 「や。多分、高砂さんよりボクのが必死でしたけどね……。」


 変態に捕まるを思えば。

 必死さはボクのが上だろう。

 兇器の包丁を高砂さんに預け、刃に用務員さんの仕事で使うのであろう布テープを巻いて彼は自身の鞄に隠すように収納した。比喩ではなく本当に隠したのかもしれない。共犯者になりたいと追いかけて来るぐらいなのだから。

 変態は理解出来ない。

 どっちかといえば狂人に近かったが。

 「……何故、刺したのかを問わないんすか?」

 「ん。其処征く少年よ。その問に何か意味や価値があるのだと判断出来るのは法曹界に生きる者だけだ。弁護は出来るのか。情状酌量の余地はあるのか。とね。しかしながら私は名探偵であり用務員だ。だからこそ少年には何も聴かないし何も問わない。問いかけという行動自体に意味も価値も無いからね」

 「……なら、高砂さんは何故ボクの共犯者になろうと必死なんすか?」

 「大人だからさ。少年」

 イマイチ要領を得ないというか。

 暖簾に腕押し。

 はぐらかすばかり。

 登下校に使うばかりの坂を三度行き来し、犯行現場に足取り重く引き返す。


 ボクが刺した遺体が。

 消えていた。

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