5、でたとこプランニング

「それじゃ、改めて今回の話を説明するぞ」


 ムーラン・ド・ラ・ギャレットの片隅、テーブルを二つくっつけた会談の場に、五つの異なった顔が並ぶ。


文城ふみきは現在、滞留資格更新を十日後に控えてる。磨平とか言うやつが、約束を破ってくれたおかげでな」

「オレもあのヒト、最初見た時は超かっけえって思ってたんだけどなぁ。ライオン獣人で、ドレッドヘアーが、ばっちり決まってて」


 俺の対面に座った白い狼が、残念そうな顔でうなった。


「口を開くとものすごいチンピラで、一気に萎えたよ。やっぱ悪役ケモって、創作の中だけで楽しむ方がいいな。友達になるなら、普通が一番」

「ふみっち、そうとうイビられたんでしょ? 次見たらゾウ撃ち銃エレファントガンで、あいつのケツアナ、二十個ぐらい増やしといてあげるから。ビチグソパラダイスね」

「気持ちは分かるが、下品な表現はやめろよ。一応メイドさんなんだから」


 白い狼を挟むようにして、文城と柑奈かんなが座っている。隣にすると、すぐに柑奈がセクハラを始めるので、接近禁止にする必要があった。


「ところで、ここで確認したいことがあるんですが、いいでしょうか」


 文城の隣にちょこんと座っていたしおりちゃんが、片手を上げる。テーブルの上に広げられたパンフレットの、『塔』を指し示した。


「皆さんの最高到達階は、どこまでですか?」

「オレ十階!」

「あたしも十階」

「ぼ……僕、一階」

「俺は当然なし。しおりちゃんは?」


 少しはにかんで、鳥の模造人は申告した。


「十九階です」

「マジで!? 超ベテランじゃん! うらやましー!」

「そういえばしおりって、いろんなパーティに入ってたもんね」

「ただし、あくまで補助要員としてです。戦闘の経験はほとんどありません」


 つまり、俺と文城、しおりちゃんは素人同然、ってことか。

 十階到達経験者に目線をやると、二人ともどこかおぼつかなげに、言葉を濁した。


「ごめん、あたしもメインパーティでの到達経験は無し。戦闘参加できるから、どこの引率屋でも、安く入れるんだけどね」

「……俺は、その」

「何ウジウジしてんのよ。どのパーティも出禁になってんの、みんな知ってんだからね」

「パーティ出禁って、なにやったんだ?」


 物言いはおバカだが、性格に難があるとも思えない狼は、観念して白状した。


「俺のギフテッド『超紅蓮爆裂波』なんだけどさ」

「聞けば聞くほどすごい名前だなー」

「むせかえる厨二臭パラダイス、臭いセンサー壊れそう」

「僕は……好きだよ。カッコいいし」

「おおっ、文城は分かってくれるかー。オレもさ――」

「で、その超紅蓮なんとかが、なにかまずいのか?」


 本人曰く『聖竜天狼騎士が放つ、必殺にして悪を滅する聖なる劫火(ごうか)』という触れ込みのギフテッドは、はっきり言って最悪だった。

 

「火力の増減も、出せる範囲も、一切調整効かないんだよ……」

「出したら出しっぱ。パーティどころか本人も、みんなまとめて丸焼けパラダイス。同じパーティ入って、ひどい目見たわ」

「それに、ダンジョンのトレジャーまで、全焼させたことがあって……悪気はなかったんだぜ、オレもさぁ……」


 ついたあだ名が『ダンジョン破壊魔デモリッシャー』、今では彼を受け入れてくれる引率屋どころか、シャークさえ寄り付かないらしい。


「って、なんで生きてけるんだ? プラチケは?」

「その子の力、加減は効かないけど、役に立つの。今日も焼いてたでしょ、崩落クエストで処理しきれなかった、やっかいな廃棄物。Pの館の職員扱いってこと」

「聖竜天狼騎士様、ゴミ処理施設に就職。技能を生かして安定収入か、うらやましー」

「嫌味かよ! くっそー、どうしてこうなったぁああっ!」


 嘆き突っ伏す狼に苦笑しつつ、乙女さんは人数分の飲み物と、一枚の用紙をテーブルに置いた。


「今回は引率屋さんを通さず、自力で十階到達を目指すんでしょ? ダンジョン攻略の申請書に、参加者と所持ギフテッド、パーティ名を記入をして提出してね」

「こういう申請書類を出すのも、ギルマスの仕事か。お疲れ様です

「まさか、うちからこの書類を出す日が来るとはね。ちょっとドキドキするわ」


 書類の内容に目を通し、俺は一番上、パーティリーダーのところに、自分の名前と能力の詳細を書き込んだ。


「パーティリーダーは俺だ。ダンジョンの経験はないが、これでも企業で管理職やってたからな。文句があるなら聞く」

「リーダーとかめんどいし、あたしはそれでいいよ」

「リアル経験でマウント取られると、反論できねーじゃん。でも、カッコいいだけじゃ、リーダーはできないからな……頼むわ」


 不満を言ってきそうな二人が真っ先に折れて、俺は評価を改めた。実際にダンジョンに潜ってきて、遊びではないことを理解しているからだろう。

 それから鉛筆と書類を廻し、ひとりひとり、必要事項を書き込んでいく。


「えっと、せいてんき」

「ちょっとあんた、生前本名って書いてあるでしょ」

「ええー、折角転生して、自分のファーソナと一体化できたのに……」

「文句言わない。あたしだって、あだ名や二つ名OKなら、そっちにしてたっつの」


 鶴巻紡つるまきつむぐ、それが聖竜天狼騎士様の本名だった。ファーソナというのが何のことは分からなかったが、めんどくさそうなので、聞かなかったことにする。


「しおりちゃんのあれ、『緑の親指』でウーグルって読ませるのか。格調高いなぁ」

「どっかの誰かさんとは大違い」

「あんだとぉ?」

「私は好きです、つむぐさんの技。そういう名前とか設定を考えるの、楽しいですよね」

「えー……しおりちゃんもそっち側なんだー、なんかショックー」


 それぞれの記入が終わり、一通り目を通す。

 その中で柑奈かんなのギフテッドが気になった。


「この『マガジン』って、どういうマガジン?」

「あ、そっか。まだ見せてなかったっけ。んじゃ、はい」


 手渡されたのは、艶消しされた金属製の、ごつい弾倉(マガジン)。

 と、その下に敷かれた『日々是盆栽』という表紙の雑誌(マガジン)。


「ダジャレかよ! って、なんで無関係の本と弾倉が出せるんだ!?」

「さあ? あたしがかわいいから、例のアレが、おまけしてくれたのかも」

「おまけが本体過ぎる! ってことは……お前の武器って」


 ばしゃっ、という音共に、腰のあたりから飛び出るのはオートマティックの拳銃。

 スピンさせながら二丁を構えると、メカ娘メイドはニヤリと笑った。


「日常生活から戦闘まで、とことんご奉仕。超有能メイド、カンナ様をヨロシクぅっ」

「ず……」

「ず……」


 図らずも、俺と聖竜天狼騎士の心は、一つになった。


『ズルすぎるだろそれえっ!』

「えー、別にズルくないし―、かわいいは正義なんですぅー」

「変形ギミックで銃が出るって! 普通にカッコよすぎてうらやまし過ぎるっ!」

「俺が鉛筆でヘコんでる裏で、この優遇っぷり……許されないだろぉ、格差社会反対!」


 そんなしょうもないやりとりを終えて、最後に残ったのは、パーティの名前をどうするか問題だった。


「こういうのって、結構揉めるのよね。アイデア出しとかでも時間かかるし」

「オレ、もう眠くなってきた……お開きで明日またじゃダメ?」

「今は書類を出すのが最優先だし、俺が適当に決めていいな?」


 騒ぎ疲れたみんなが頷き、俺は暖めておいた名前を書き入れた。


「『パッチワーク・シーカーズ』……まあ、おっさんのセンスじゃこんなもんか」

「過去生の持ち出し禁止! 今はゼロ歳換算で、よろしく」

「でも、私たちには合ってるかもですね。良いと思います」

「次は俺に決めさせてくれ! 絶対カッコいいのをつける!」


 どうにか書類を整えると、ずっと見守ってくれた乙女さんに提出する。打ち合わせを始めてからだいぶ時間が経った。すでに紡はテーブルに突っ伏して寝てるし、しおりちゃんも舟をこぎ始めていた。


「出発は明後日に設定しておくわ、それで大丈夫そう?」

「作戦立てて道具集めして、タイムリミットも含めて、そのぐらいがギリギリっすかね」


 カツカツな納期、クソみたいなアクシデント、終わりの見えない案件。慣れ親しんだデッドでブラックな気配を感じて、俺は口元を歪めた。


「その顔なら、任せてもよさそうね」

「どういう意味っすか?」

「逆境で燃えるタイプ。ここに来たってことは、無理しすぎちゃったみたいだけど」

「……面目ない。こっちでは、もうちょっと、うまくやりますよ」


 よたよたと寝室の方に引き上げていく集団を追って、俺も上へあがる。

 カウンターに寄りかかって、憂い顔を金髪で隠す乙女さんを、見ないふりをして。



 ダンジョン攻略開始、一日前。

 下宿に泊まってもらったしおりちゃんと文城を交え、具体的な作戦の立案をすることになった。

 つむぐは溜まっている仕事を片付けると勇んで出ていき、柑奈かんなはいつも通り、メイド喫茶で仕事に入っている。


「まず、二十階までの基本構造についてです」


 いったん自宅に戻ったしおりちゃんは、かなり分厚い紙の束を持って帰ってきた。

 本人が廻ったダンジョンの構造と特徴が、詳細にまとめられたものだ。


「塔の二十階部分は、一日に一回、リセットがかかります。そのタイミングは、朝七時に解放される入り口に、最初の攻略者が入った時点です」

「つまり、攻略は日帰りにした方がいいってことか」

「一応、攻略済みのフロアにキャンプを造って、更新を待つ手もありますけど、モンスターに襲われる危険を考えれば、推奨できません」


 小さな体に大きな知性。チョウゲンボウケストレル模造人モックレイスは、その鋭い視線とくちばしで、ダンジョンの秘密を咀嚼そしゃくしてくれた。


「ダンジョンの各階層には『トレジャー』と呼ばれる、特別な宝物が配置されています。私たちが求める『十連プラチナチケット』も、その一つです」

「余裕があったら、他のも欲しかったけど、今回はパスだな」

「はい。大抵の引率屋さんも、プラチナチケット以外は無視しますから」


 トレジャーリストにざっと目を通すが、魅惑的なものがそろっている。ただ、基本的には『役立つ道具』が中心で、武器や防具などは置かれていないようだ。


「ダンジョンは、その階層内では双方向移動ですけど、一度階層を上がると、下へ戻ることはできません」

「それじゃ、どうやって帰ってくるんだ?」

「降りられなくなるんじゃなくて、降りる階段が『出口』になっちゃうんだよ」


 苦々しい顔で、文城ふみきが告げる。

 上りの階段は冒険者たちを次の階層に移動させるものだが、下りの階段を使ったら、ダンジョンの出入り口に転移させられてしまう。

 その仕組みを使って、例のクソヤロウは、文城を地獄へ蹴り落したのだ。


「おそらく、詰み防止のような意図なんだと思います。実際、半壊したパーティがわざと上階に上がり、そのまま下り階段で脱出、ということもあるそうです」

「それ聞いて、ちょっと安心した。その手を使えば、半人前の俺らでも、最悪死傷者を出さずに済みそうだ」


 一日寝て冷静になってみれば、この計画ははっきり言って無謀だ。参加したメンバーの誰にも死んでほしくないし、危険があるなら、すぐさまリタイアするつもりだった。

 だが、一度でもリタイアすれば、リトライは無理に等しい。


「仮に、今回のアタックでリタイアして、最終更新日までにもう一回、入れるかな」

「駆け込みで入る人も多いので、書類の段階で切られてしまうかもしれませんね。一日の上限人数は、百人だと聞いています」

「……となると、代案がいるか」


 他のギルドのプラチケを譲ってもらうとして、その元手になるものがいる。出来ればダンジョン内で拾える何かがいい。


「作戦を修正する。しおりちゃん、他のギルドに売れそうなトレジャー、知らないか?」

「そう……ですね」


 銀色の羽が、見込みのある階層を指し示していく。


「四階、五階、七階、この辺りのトレジャーなら、おそらくは」

「入手難度は?」

「少なくとも、初心者の私たちだと、どれも危険が勝ります。ただ……」


 彼女は五階の部分を示す。そこには『★』のマーキングが振ってあった。その脇に長大な斧槍ハルバードを持った、騎士鎧が描かれている。


「五階はボスフロア、階層を仕切る壁のない、完全な戦闘エリアです。上がる階段も、ボスを倒して出現させる必要があります」

「条件を満たせば、トレジャーも出るってことか」

「ここのトレジャーは『オートマッパー』、ダンジョンの構造を記録し、地図にしてくれます。有名ギルドだと、初心者に持たせるため、複数個用意してあるそうです」


 となると、安く買い叩かれるだろう。状況的に手に入れることはありそうだが、金策には向かないな。


「四階の『魔法のランタン』は、階層自体が危険なので、入手どころか長居もお勧めしません。上級者でも、早めに通り過ぎるほどです」

「まさに死の階層か。七階は?」

「『聖なる手榴弾』。不発が出ることもありますが、ダンジョンでも珍しい、攻撃用のアイテムです。これを集めている好事家がいるので、狙い目ではあります」


 拳銃がある時点で近代兵器もあると思ってたけど、まさか手榴弾があるとは。


「この階層の特徴は?」

「ひたすら面倒、ですね。回転床、一方通行、分断の仕切り、突然壁がなくなって、奇襲を受ける場合もあります。その下の六階と並んで、初心者殺しと呼ばれる階層です」

「で、でも、抜ける方法も、ちゃんとあるよ」


 それまで聞き役だった文城が、六階を指し示す。


「六階は、透明なガラス張りみたいになってて、その分壁が脆いんだ。トレジャーを気にしないなら、壊しながら進む方がいいって」

「七階も、その方法を使うことができます。ただし、どちらも『遭遇するモンスターを余裕で倒せる実力がある』前提です」


 二人の意見を聞きながら、俺は分かったことを書き記していく。ダンジョンの大まかな構造と特徴、トレジャーの存在、出現する敵。

 熟練者にとっては情報の出きった狩場だろうが、こっちにとっては一階層ごとが決死の大冒険だ。


「さて、後回しにしてきたけど、最後の質問だ。十階層目、ここも星が付いてるけど、フロアボス討伐形式なんだな?」

「はい。十階層、フロアボス『ウィザードレイド』。今の私たちにとって、ここが最大の難関です」


 目指すべきお宝を守るのは、複数体出現する魔法使いの群れ。ダンジョン探索どころか戦闘さえおぼつかない集団にとって、頭の痛い問題だ。

 とはいえ、問題が明快になれば、無理を通して道理を引っ込ませることもできる。

 見てろよ異世界ダンジョン。

 現代日本のクソ案件で培った、ゴリ押し力を見せてやる。


「よし。二人は休憩したあと、乙女さんと相談して必要な荷物をピックしておいてくれ」

孝人こうとは?」

「実働部隊と打ち合わせしてくる。あいつらが作戦の要だからな」


 土産代わりに弁当をいくつか受け取ると、俺はつむぐが仕事をしている廃棄処理場へと向かうことにした。



 不愛想なメイドを引き連れて、東の荒野にやってくると、立て続けに派手な火柱が上がっているのが見えた。

 上半身をはだけた白い狼は、テンション爆上げで廃棄物を焼き尽くしている。


「やだアイツ、更に暑苦しくなってるじゃん。萎えすぎパラダイスなんですけどー」

「やる気になってるのはいいことだろ」

「あれが、あたしたちに飛び火することになっても?」


 バカっぽそうに見えて、柑奈かんなは冷静で計算高い。技名を絶叫しつつゴミを焼いている狼を見てると、不安だけしか湧いてこなかった。

 ほんとギフテッドって、ままならないなあ。


「おお! 二人とも来てたのか! それ、オレの弁当でいいんだよな!?」

「差し入れだよ。お仕事ごくろうさん、騎士団長殿」

「お前らはもう食ったの? まだなら一緒に食おうぜ!」


 黙ってれば凛々しい狼顔も、元の性格がなつっこいせいで、白くてでかいワンコだ。


「毎日毎日、変な肉塊の残骸とか、くっせえ煙を出す機械を焼くばっかりで、飽き飽きしてたんだ。久しぶりにダンジョンに入れるんだと思ったら、仕事はかどりまくってさ!」

「でも、爽快感は無いと思うぞ。今回はひたっすら、ステルス&ステルスだ」

「あんたの超魔法も使用厳禁、わかった?」

「んー、分かった。しょうがねえ」


 残念そうではあったが、意外にあっさりと紡は承服してくれた。とはいえ、確かめたいこともある。


「たしか、二人は一緒のパーティで、ダンジョンに入ったことあるんだっけ?」

「あったねー、そんなこともさー。あれでこいつは出禁確定したようなもんだけど」

「……六階のショートカットぐらいなら、オレでも行けると思ったんだよ」


 なるほど、やっぱりそうか。

 自分の魔法、というかギフテッドが暴走同然の能力なのに、周囲に迷惑がかかる状況で紡が使うとは思えない。

 となれば『使っても良さそうな場所』で、使用したはずだ。


「斥候役のあたしを押しのけて、つむぐが先走ったの。で、例の魔法でドーン。止めようと飛び出したあたしだけ、めでたく黒焼きパラダイスってわけ」

「でもお前、良く生き残ったよなぁ。俺はそのまま階段で、一階に戻っちゃったけど」

「自爆特攻かよ。いや、下の階層で安全なルートが確保できてるなら、そういう手もアリなのか」


 独断専行もさることながら、その時のパーティは六階の敵と、トレジャーに用があったらしい。そのことをとがめられた紡は、ダンジョンと無縁の生活を送ることになった。


「みんな『六階は面倒だからフロアを破壊して進もう』って言ってるしさー。少しでも役に立ちたかったんだよー」

「そんな思い付きで殺されかけたら、たまったもんじゃないんだけどー」

「でも、つむぐの炎でも柑奈かんなは平気なんだな?」

「ねえ……ちょっとネズミ、なんでさっきから、こんなクソイヌのアホエピソードに食い付いてるわけ?」


 俺は笑顔で首をかしげて、手にしていた十階攻略の草案を差し出した。


「作戦その一、あたしが前衛を務めてウィザードのヘイトを稼ぐ」

「作戦その二、オレの超魔法でウィザードを焼いて撤退。柑奈が踏ん張りクリアを確定」

「作戦その三、ボス撃破と同時に出現したトレジャーを、残るメンバーで確保して離脱。って感じなんだけど、どうだ?」


 俺の提案に対して向けられた解答は、賞賛と銃口だった。


「うおお、なんだこのすげーミッション! しかもオレの超魔法大活躍じゃん!」

「今すぐ脳みそかはらわたか、好きな方のぶちまけパラダイスだよ。選べ、クソネズミ」


 OK、まずは見えてる爆弾の処理からだ。

 額に銃口の刺激を感じながら、外してある人差し指がトリガーに掛からないよう、慎重に言葉を選ぶ。


「常識的に考えて、俺ら全員でウィザードに挑んでも、犠牲が出るだけだ。アタッカーはお前と紡だけ。戦闘補助にしおりちゃんがいるけど、彼女の能力だって、万能じゃない」

「『結晶弾』の蓄えはあるから、あたしもウィザードに対抗できるよ。こいつの武器も、霊体や魔法防御を抜ける『結晶呪装』だったはず。騎士様名乗るだけあって、剣もそこそこ使えるし、正面からやってもムリゲーってほどじゃ」

「お前の経験は、あくまで『引率屋がいる時』のものだろ? 今度は道中の敵やトラップにも、自分たちで対応するんだ。体力や装備の損耗まで考えたか?」


 納得はしない、それでも意見はいれる、そんな感じで銃をしまう柑奈かんな

 その様子に、はしゃいでいたつむぐも、心持ち真剣な顔になった。


「つまり、今回はひたすら敵を避けて、力を温存して、最後にトレジャーをかっさらうって感じになるのか」

「それだけじゃない。今回は他のパーティも利用する」

「あー、コバンザメ作戦ね。クリアリングまで行かなくても、その日の敵やトラップは有限だから、他人を囮にすると」


 今度はあからさまに、紡が渋い顔をする。


「なんか、卑怯臭くて嫌だ。第一、人助けのために他人を犠牲にするなんて、騎士のすることじゃない」

「フロアボスに挑めるのはパーティごとで、先行した奴らが倒しても復帰するんだろ。そもそも、俺たちがそんなきれいごとを言える実力か?」

 

 納得できない、でも納得するしかない。そんな感じでそっぽを向く紡。

 プロジェクトメンバーの顔が、俺への不満で曇る光景なんて、よくあることだ。

 それでも、その時に取れる最善を。みんながなるべく損をせず目的を達成するために、頭を使って頭を下げていくのがリーダーの役目。


「店に戻ろうぜ。向こうでも用意が済んでるはずだし、装備の分配とかもあるしな」


 二人分の不満を背に受けつつ、俺は先に立って歩きだした。

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