ハート・スピリット

「亜子ちゃんは、なんで食べられたいん?」


ひとまず家に向かうため二人で歩いている。沈黙というのもあまり好きでは無いので、とりあえず気になったことを聞いてみた。


「死にたいからです」

「神サマが?」

「神サマだから、です」

「……ふーん」


訳ありそうな雰囲気だが、さすがに会って一日の少女にそんなことを聞くのは野暮だろうと会話を止める。


「まぁ、人間って醜くて、汚いものなんですよ。自分の利益のためなら、本当に何でもしますよ。

実の娘を傷つけることもね」


そう言う彼女の顔は、少し辛そうだった。


「私は人間であり、神です。

みんなに崇め奉られます。

それは、とても羨ましいことなのでしょうね」


どこか他人事な物言いは、より一層好奇心を刺激した。

ただ、あたしは理性のある鬼なので、そんなことはしない。デリケートなことを他人から詮索されるのはいやな話だろう。


そうこうしている内に家に着いた。

"家"と聞いてほとんどが想像するような、絵に書いたような家。


鬼は想像したものを実際に作ることができる能力があるので、この家もそれで作ったものだ。


「…………なんというかこれは、想像以上に"家"ですね……」

「多分あたし貶されちょるよな?」

「もしかしてこれ幼稚園児がデザインに携わってたりします?」

「いや、全てあたし一人で作った」

「……なんと」


亜子ちゃんは呆れたように一つ溜息を吐くと、何やら目を閉じて念じるような姿勢になった。


「私が再建するので、待っててください」

「へぇ、神サマもできるんや」


すると、数秒もしないうちに"家"は水素爆発のような音をたてながら、昔ながらの日本家屋に変わった。


「これでどうですか?さっきのよりはマシでしょう」

「おぉ!凄いな君!」

「一般的な庶民の家を思い浮かべただけです。誘鬼サマが乏しすぎるんですよ」

「ハハ、すまんなぁ」


本当に、精巧な和風の家。今まで見たどんな建物よりも立派だ。

形は。


「……ところで、なんでこの家、真っ白なん?」

「……誘鬼サマは仕事をしていないので、塗装をしてください。」

「……え、全部?」

「はい。全部です」


それは、あたしの方が仕事量多くなってないか……?

あたしを働かせるためだけに、わざと、真っ白な家を想像したのか?


「……とりあえず、眠いから明日ね……」

「がんばってくださいね。誘鬼サマ?」


手伝う気はない、と

...これなら前の方がまだマシだ...

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おいしい神様は食べられたい 風音 @kazaoto

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