Episode.26 Shien Blossom
チームメイトに本当の自分をさらけ出した翌日も、シャウリーは完全なる美少女を演じきっていた。
午後の戦闘訓練を終え、教室へ戻る最中、不意にあることに気づく。
(ブレスレットがない…!)
訓練中に壊してはならないと、外して制服のポケットに仕舞っていた。中に手を入れて何度も確認するが、やはりない。どこかに落としたのだろうか。
(どうしよう…)
戻って探さなければ。だれかに踏まれでもしたら大変だ。母から貰った、世界に一つだけしかない思い出の詰まった宝物なのに。もしこのまま見つからなかったら、あるいは壊れてしまっていたら…。焦りばかりが募り、目の前が真っ暗になる。
「シャウリー?どうかしたの?何かあった?」
「あ…」
チームリーダーのフレアが声を掛けてきた。シャウリーの不安を見て取り、心配そうにしてくる。シャウリーは藁にもすがる思いだった。
「実は、あのブレスレットを失くしちゃったみたいなの」
「うそ…」
「帰る途中に落としちゃったのかもしれない」
「大変!すぐに探しに行こう」
シャウリーの手を引っ張り、フレアは走り出す。視線を忙しなく移動させ、廊下を隅々まで見ていく。その真剣な背中を見て、シャウリーも表情をグッと引き締める。
二人は更衣室までの道のりを隈なく探した。通りすがりの生徒にこんなブレスレットを見かけなかったかと口頭で説明したが、首を縦に振る者は現れなかった。時間だけが過ぎていく。これだけ探しても見つからないと、不安が大きくなり、希望がみるみる失われていく。
(お母さん…!)
神にでもすがる思いで強く求めた。まるで祈りが通じたかのように、側を通りすぎる二人の女子生徒からこんな会話が聞こえてきた。
「ねぇー、このブレスレットさっき窓際に落ちてたけど、だれのかなー?」
「さあ。教員塔にでも届けてみる?」
シャウリーの瞳に元の以上の光が輝いた。考えるよりも先に体が動き出し、二人を追いかける。
「待ってぇ〜!それ、私のな――」
「ってかコレ、絶対安モンだよね」
それを聞いてシャウリーはビクッとなった。もう一人の女子生徒も小馬鹿にしたように笑う。
「今どきこんなオモチャみたいなアクセサリーつける人いるんだ」
「言えてる」
アハハ、と笑い声はどんどん遠のいていく。もし自分のものだと切り出せば、印象はガタ落ちだろう。今まで努力してきたことが一瞬で水の泡になるかもしれない。噂というものはすぐに広まってしまう。明日には皆の見る目も変わっている。そう思うと、それ以上追いかけることができなかった。
肩を落とすシャウリーの横を橙色の明るい影がサッと通りすぎた。
「安物は安物でも、コレ、すっごくカワイイよね!作った人、センスあると思わない?」
シャウリーは目を見開いた。フレアの気遣いには感謝の思いが湧くものの、相手の口からどんな言葉が飛び出してくるのか考えると怖い。耳を塞ぎたくなるのを必死でこらえた。
「うん、かわいいよ。普通に」
女子生徒は真顔だったが、嘘を言っているようには見えない。シャウリーは心が一気に軽くなるのを感じた。
「あ、もしかしてこれ、あなたの?だったら――」
「ううん、違うの」
シャウリーは目に浮かぶ涙を指で拭うと、口元に笑みを浮かべ、女子生徒へ近づいた。
「それは私のなの」
二人はシャウリーを見るなり素っ頓狂な声を上げた。
「え!?シャウリーちゃん!?うそ!!」
「シャウリーちゃんのだったんだ!ごめんなさい!すぐに返すから」
「ありがとう。――似合うかしら?」
「うんうん!めちゃくちゃカワイイ!シャウリーちゃんが着けると一気に高級ジュエリー感出たよ!」
「アクセサリーって着ける人によって見え方変わるんだね!さすがシャウリーちゃん。ほんと天使、可愛すぎ!」
「うふふ」
二人は散々興奮しまくったあと、キャッキャいいながら去っていった。シャウリーはフレアのほうを振り返ると、我が身に戻ってきたブレスレットを愛おしそうに撫でる。
「ありがとね、フレアちゃん。私に勇気をくれて。おかげでブレスレットを取り戻すことができたわ」
「勇気をあげたなんてそんな…。私はただ、本当のことを言っただけ。取り戻せたのは、シャウリー自身の強さだよ。でも、見つかって良かった」
「うん」
彼女がそのとき見せた満面の笑みは、どんな高価な宝石よりもずっとずっと輝いていた。
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