Episode.23 A shadow begins to writhe
信者が祈りを捧げる礼拝堂があった。
灯りのようなものはなく、窓から満月の光が差し込み、簡素な石造りを青白く浮き彫りにする。赤黒いマントの集団は目を閉じて両手を組み、この場は粛々とした空気に満ちている。どこかから呻き声のようなものが聞こえるが、気にする者はだれもいない。
祭壇は、顔の部分が欠けたフィーランス像が無造作に倒されていた。立っているのは別の女神像だ。目鼻立ちがくっきりとした、流れるような長髪は、フィーランスに見劣りしないほどに美しい。正反対の点があるとすれば、ミミズ腫れの血走った眼は黒く淀み、この世の全てを酷く憎んでいた。
信者の前に立つ男は祈りを終えると、ゆっくり後ろを振り返る。
「皆さん。憤怒の儀を無事に終えました」
その背格好と喋り方はまさに神父そのもの。クセのかかった黒髪の下は柔和な顔立ちで、灰の瞳の周りは皺が寄っている。
「長年の準備の甲斐あって、ようやくこの日を迎えることができました。皆さんも随分と待ち侘びたことでしょう。それぞれの思いを抱えながら」
男の頭上に何本もの棒状が吊り下がっている。両手両足を縛りつけ、逆さの顔面は鬱血し異様なほどに赤い。飛び出しそうな目玉は長時間に及ぶ苦痛の果て絶望の色を浮かばせていた。だらしなく開いた唇からはもはや垂れる液体もなく乾燥しきっている。
男はマントの裾を広げて笑みを浮かべた。
「では皆さん、始めましょう。女神へレイドの怒りを今こそ地上へお返しするのです」
空は急速に暗雲が立ち込め、満月が消えかかろうとしていた。
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