Episode.20 strong people

 「それでは、第7回戦目。チーム・ヴェールVSチーム・スネークス。両者前へ!」


 審判が促すと、両クラスより男女十人がフィールドへ移動する。中央まで歩いてきたチーム・スネークスは、目の前に並ぶ異様な空気感に息を呑む。


 「アンタがリーダー?」


 そう声をかけたのは、ツンツン黒髪に、片目を隠したほうの前髪にピンクのメッシュを入れた男だ。三白眼で、ガタイがよく、左耳に揺れるピアスをつけている。


 「あ、ああ」

 「俺、ユテク・アーカイン。リーダー同士、仲良くしようぜ〜♪」

 「おい、ユテク。あまり言ってやるな」


 左隣から落ち着いた強さのある声色が諭す。


 「まあ、どのみちあたしたちが勝たせてもらうがな」


 長い青髪をハーフアップに束ねた褐色肌の少女――タンザナイト・シスターはキリリとした眉毛に力強い瞳で言い放つ。


 「そーそー。せいぜい大ケガしないように気をつけなよーって感ジ?」


 パッツン前髪のサイドテール少女も、髪の先端を指先にくるくる巻きつけて弄びながら笑う。ネモ・ドール。彼女もピアスをつけ、左目の下にハートのマークがある。


 「まあまあ、二人とも。勝負はやってみないとわからないよ。相手を舐めると痛い目を見るって、よく言うでしょ」


 やさしくたしなめるのは、白髪におしとやかな外見の少年、アラン・ルーガン。微笑んではいるが、やはり内にはただならぬ気配を宿している。


 「お、おい!」


 チーム・ヴェールの四人はさっと振り返った。相手チームの一人が食ってかかるように睨んでいる。


 「上位ランカーだかなんだか知らねぇけどな!言いたい放題いいやがって…。俺たちだって、毎日特訓して力をつけてるんだ!お前らみたいに人を見下して余裕ぶってる奴らなんかに負けてたまるか!」

 「なら、さっさと始めよう」

 「え?」


 ゼムはそっぽを向いたまま、至極どうでもよさそうに言った。


 「勝敗を決めたいなら、フィールド上でやればいい。それが一番、手っ取り早い。そうだろう?」


         ❖❖❖


 その後の展開はあっというまだった。

 5―0

 チーム・ヴェール側は全員無傷で完全勝利を果たした。最前列で観ていたフレアたちはクラスメイトが為す術なく倒されていく姿を目の当たりにした。


 「…あのゼムって人、スゴかったね」


 フレアはつぶやく。


 「身体能力もずば抜けてるけど、開始早々、隠し持ってたナイフを瞬間移動させて、相手の武器をすべて貫き壊した」

 「それを言ったら、アラン・ルーガンね。まさか、水、氷、雷、三属性持ってるなんて驚きだわ」


 エレーナは感心と驚き半々の口ぶりで言った。


 「私はゴーレムを操っている人に圧倒されちゃった。たしか、ネモ・ドールさん。あんなアトスの使い方もあるんだって」


 ローズの目に焼きついた光景が脳裏に甦る。ネモは地属性のアトスで全長15メートルの石人形を生み出し、戦わせた。クラスメイトも技で応戦していたが、頑丈で傷一つつけることができなかった。


 「デメトリアはどうだった?」


 フレアはうしろへ背を倒しひょこりと顔を出す。真反対に立つデメトリアは相手陣地へ目を向け、チームメイトと真顔で喋る青髪の少女を見据えた。


 「タンザナイト・シスター。奴と一戦交えたい」

 「タンザナイトさん!パンチとキックすごかったもんね。水属性の技もカッコよかった」

 「ああ」

 「あの背の高いリーダーの人も剣の腕前はキレキレだったけど、アトスの技を使ってるようには見えなかったね」

 「いいえ」


 フレアはとなりのシャウリーを見て首を傾げた。シャウリーは片目をつむり、閉じていないほうの目を指さす。


 「スペクタクルで相手の能力を見ていたら、あのリーダーさん、戦いが始まる前と後とで身体能力が格段に違っていたわ」

 「それって…」

 「つまり、私と同じ無属性ってこと。技で身体能力を底上げしたのね」

 「へえ!ほんとに色んな戦い方があるんだ」

 「オイオイ、なに他チームの感心なんかしてんだよ」


 振り返ると、アスタが腕組みし仁王立ちしていた。

 

 「アスタ」

 「次は俺たちが活躍する番だっつーのに」

 「そっか!9回戦目はチーム・ジャスティスの出番だったもんね」

 「あんた、調子に乗ったら足元すくわれるんじゃなかったっけ?」


 エレーナは学校初日の特別授業のことを言っていた。あのときのアスタは今と同じく自信満々だったが、それゆえ相手の力量を考えず、ローズにあっけなくやられてしまったのだ。


 「まあ見てろって。この俺が観戦席をわっと沸かすところを!」

 「あー…」


 アスタが言えば言うほど、フレアたちの期待度も降下していく。


 「アスタ、何してるの。早く行きましょ」

 「おう!今行くぜ」


 走っていくアスタと、その向こうで待つルビー、ティアラ、ウル、フォンセに、フレアたちはがんばってと声援を送った。彼らもまた、任せろと言わんばかりに笑みを返してくる。


 9回戦目、チーム・ジャスティスVSチーム・ユニコーンのバトルがスタートする。


         ❖❖❖


 両チームが揃うと、フィールドを囲うように結界が張られた。

 現在の戦績は、クラス・ミラージュ4勝、クラス・イグニート3勝、と1引き分け。もしチーム・ジャスティスが負ければ、クラス・イグニートの勝利はなくなってしまう。クラスの命運を背負った大事な一戦である。普通ならプレッシャーを感じそうなものだが、武器を構える五人にそのような様子はない。むしろ、うっすら笑みを浮かべているようにさえ見える。


 「それでは、バトル開始!」

 

 同数の戦い。一対一になるのが自然だ。

 ルビーは自分のほうへ向かってくる灰髪の男に狙いを定めた。


 「ふッ!!」


 ハルバードを器用に振り回し、女性とは思えないパワーで相手のハンマーを弾き返す。耳に響く金属音の大きさがその凄まじさを物語っていた。

 左端、ウルは対面する三つ編みの男の子に向かってラッパを構えた。


 「いっくよー!」


 プゥ〜〜〜〜〜ッ!!

 高音の音攻撃が風圧を伴い突き抜けていく。


 「ううッ!」


 三つ編みの男の子は急いで手をかざした。その場は急激に冷え込み、床が凍りつくと、目の前に氷の壁が出現した。彼は分厚い氷の盾の後ろに隠れ、音が止むのを待とうとする。


 「へぇー!氷属性か。でも、そのくらいアタシの最大出力なら破壊できるけど!」


 先ほどよりめいっぱい息を吸い込み、ラッパの口に全力で吹き込んだ。常人じゃ立っていられないほどのパワーを受け、氷が振動しはじめる。やがてビキビキと亀裂が入りはじめ、彼は「うわあ…!」と窮地に追い込まれる。

 ルビーの左隣は、ティアラの戦場だ。目の前には刃がぐにぐにうねった変わった形の剣を持つ紫髪の男がいる。彼は細目を三日月の形に笑んだ。


 「女の子だからって手加減しないよ〜」

 「お手柔らかにお願いまーす」


 ティアラは愛想良く笑い、棍棒を構える。

 紫髪の男が余裕の笑みで剣を振ってくる。ティアラは棍棒を華麗に振り回し、それを軽々と受け流していく。だんだんと男から笑みが消え、焦りへと変わっていく。ティアラの棍棒が男の足を突き、今度は腹を突き、男は吐きそうに呻いた。

 さらにその隣には、アスタがいる。アスタと対面するのは、顔も体も四角い岸壁のような大男だ。どう見ても体格差がありすぎる。

 巨体の男はアスタが持つ二丁拳銃を見るなり、鼻で笑った。


 「お前のことは知っている。水の弾丸を操る男だ」

 「おうおう、マジか!俺ってば超有名人」

 「フン。そんなおもちゃでこの俺が倒せるか。顔にさえ当たらなければ、この岩をも砕く体ですべて弾き返してくれる」


 巨体の男はメリケンサックをはめた拳をゴツンとぶつけ合わせ、ドスンドスンと床を駆けてきた。アスタはニヤリと笑う。


 「要は顔に当てりゃいいってわけだろ?そんなモン楽勝だぜ」


 それを聞いて、相手は拳でサッと顔を隠した。覗く口元は馬鹿にしたように歪んでいる。ズルッと巨体が突然傾き、男は泡を食らったような顔をした。足元がいつのまにか水浸しになっていた。


 「顔面ロックオン!」


 倒れていく拍子、顔から手を離した相手に、二丁拳銃の口が火ならぬ水を噴いた。弾の精度は百発百中で、目以外の顔中に容赦なく撃ち込まれた。


 「ぐおおあああ!」

 「悪いな。追い打ち食らいやがれ!」


 アスタは二丁拳銃から機関銃に切り替え、ガチャンと構えた。

 どの戦場でも勝利は目前――だが。

 敵陣の奥にフードをかぶった女がいる。女はボソボソと呪文のようなものを唱えていた。「ハッ!」と手を突き出すと、ルビー、ティアラ、アスタ、ウルの頭上から炎の岩が同時に降ってきた。


 「――!」

 「いやあー!?」

 「うおっ、あっぶね!」

 「ひぃー!!」


 とっさに回避した四人。しかし、目の前の敵を相手にしながら、いつ来るかわからない遠距離攻撃のことも視野に入れなければならないのは、少々厄介である。


 「俺が行く」


 残る一人――フォンセが床を駆け、フードの女に向かっていく。


 「させるか!」


 紫髪の男が行く手を阻む。そこへティアラが棍棒を一振りし、技を放った。


 「フォンセくんの邪魔はさせないわ!シューティングスター!」

 「ぬあ!?」


 星を象った光が相手の体に次々と当たり、勢いでくるくると回転させた。その横をフォンセが突っ切っていく。


 「助かった。ティアラ」

 「キャー!どーいたしましてー!」


 ティアラはぴょんぴょん跳ね、興奮度マックスで棍棒を持ったままくるっと一回転すると、たまたま近くで膝をついていた紫髪の男の頭に直撃。彼は「ぐあ!」と後ろ向きに倒れた。


 「く、来るな!」


 フードの女が迫ってくるフォンセに手を突き出し、火炎放射が空気を焼いた。


 「そいつは無理な相談だ」


 フォンセは軽々とかわし、右手に紫電をバチバチと纏わせた。女が「ひっ」と身を引く。


 「悪いな」


 華奢な肩を掴み、電流を流し込む。手加減はしているが、それでも全身が痺れてしばらく動けなくなるほどの痛みだ。女は「ああッ!!」と身をよじらせ、その場に崩れ落ちた。


 「今だ!」


 フォンセが振り返って叫ぶ。気にするものがなくなった四人はにやりと笑い、武器を構え直す。彼らの強さを身を持って知ってしまった敵チームは、思わず両手を挙げかけた。


 「うわ…ちょっ、待っ…!!」


 ルビーの華麗な斬撃が空を裂き、アスタの高い命中率を誇る連続射撃が凄まじい音を立て、ティアラの長年の相棒は敵に手を出させる暇もなく、ウルのラッパが氷の壁を打ち砕く。


 「バトル終了!!5―0で、勝者、チーム・ジャスティス」


 クラス・イグニートから大歓声が上がった。正真正銘の完全勝利である。アスタたちも大きく手を振り、クラスメイトからの興奮に応えた。

 だが、一箇所だけ盛り上がりに欠ける場所があった。このあとに最終バトルを控えた、チーム・スカーレットの面々である。


 「いよいよ、私たちの番だね」


 フレアの声色はどこか重たい。

 クラス・ミラージュからまだ出てきていないのは、学年一の強豪、チーム・エンブレムのみであった。全員ハイランクという響きが彼女たちの肩に重くのしかかる。

 それでも、フレアはリーダーとして、仲間の前で明るく振る舞った。


 「私たちもチーム・ジャスティスに続こう!たとえ、相手がでも、勝ちにいく一点のみ!」


 エレーナ、ローズ、シャウリーは口元をふっと緩ませると小さく頷き、デメトリアもしっかり目を閉じて応える。


 「さあ、行こう!」


 10回戦目。

 チーム・スカーレットVSチーム・エンブレム

 バトル開幕――

 

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