2頁 檻舘一花との面会

「……貴方が、黒崎綺夜子くろさきあやこさん、ですか?」

「はい、一花さん。隣にいるのは私の助手のはくです……ここにはお父さんはいません。気軽に話を聞かせてくれますか?」


 翌日、わたしは黒崎探偵事務所という場所にお父さんに連れてこられた。

 お父さんには車の中で待っていてほしいって言ってあるから今は三人きりだ。

黒崎さんの後ろにいる珀さんはイケメンでカッコいいけど、わたしからすればちょっと怖い。白い髪。瞳の色がアイスブルーって言うには銀色にも見えるっていうか……確か、青色の瞳は銀色にも見えるって何かの本に書いてあったっけ。

 こっちの人は異次元のかっこよさだなぁ。まるで漫画の世界の人みたい。


「……どうかしたか?」

「あ、い、いえ!! なんでもないですっ」


 わたしの視線が気になったのか、視線を向けてくる。

 うわぁ、声までカッコいいよ。低くてずっしりとした男らしい声っていうか。

 安心感も感じられて素敵な声だ。キリッとした目つきも、なんか細マッチョ感があるって言うか……夢女子って人なら放っておかないかも。

 ……わたしの中での話だけど。


「え……っと、そっちの人も一緒じゃなきゃダメですか?」

「……いやなら下げさせますが」

「い、いえいえ! 黒崎さんの助手? なんだったら大丈夫です! はいっ」

「なら、よかったです」


 黒崎さんは安心感がある優しい雰囲気がする。

 ……美人だな、すっごく魔性ましょうの女って感じ。ストレートの黒髪とか、所作なども綺麗な彼女はまるで大和撫子やまとなでしこの大人版だ。

 それにちょっと大人の色気が入った感じ。胸も出ているところは出てるんだよな。

 じっと、わたしは自分の胸に目を向ける。


「……」


 ……それに比べて、わたしは彼女よりも胸が小さい。

 身長も170前半だし……可愛い女の子、って見た目じゃないんだよな。


「……どうかなさいましたか?」

「……あ、い、いえっ」


 首をかしげる仕草しぐさすらギャップにも似た可愛らしさを感じられる。

 美人ってちょっとした動作もみーんな綺麗にしか見えないものだよね……そんな異次元の美貌びぼうを持ってるこの人でも、わたしのことわかってくれるのかな。

 ……ちょっと試してみよう。


「……私が障碍者しょうがいしゃだって、父から聞きましたよね?」

「なんの話でしょうか、悩み事がある、ということだけ聞いていましたよ。お父様は一花さんのことをすごく心配しているみたいでしたし」


 ……言葉たくみに言い負かせようったってそうはいかないから。

 一花は綺夜子あやこの核心を突いた。


「じゃあ、黒崎さんは私のこと、お父さんから聞いた話でも変って思わなかったんですか?」

「……例えば、こういうことを言っていますか?」


 パチンと、指を鳴らすとイケメンのお兄さんの周りに煙が舞う。


「え!? い、いきなり何!? 火事!?」

「いいえ、違いますよ」


 そこには、服を脱ぎ散らかした一匹の真っ白な狼が現れた。

 

「……いきなりすぎるだろう、我がつがいよ」

「貴方の恋人になった覚えも、夫婦になった覚えもありませんよ。助手さん」

「……え? しゃ、しゃべ、え!? え!? 」


 黒崎さんは優雅に紅茶を口にした。

 狼が喋ったこともそうだけど、なんで余裕そうにしてるの!? 一花は混乱しながら綺夜子が目を伏せながら普通に言うのに、さらに驚きを禁じ得ないでいた。

 妖精さんは見たことがあるけど、珀さんは違うように見えるし。

 あ、でもワーウルフとかってあったけ。人狼の奴。

 ……て、つがいって何? 恋人じゃないって黒崎さんは言ったけど。

 え? 二人ってどういう関係? ……気になる。


「……それで、一番大事な話があります」

「大事な話?」


 綺夜子あやこがこほん、と咳払いをして一花は話題を切り替えだと察した。

 学生の自分としては、恋愛話ができる友人はいなかったから、できれば話したいけど……黒崎さんの笑顔には、聞くなって圧を感じて黒崎さんの大事な話を聞くことにした。


「ええ、貴方はこういう現象や、精霊と言った類が見える……ということだったのではないですか? 檻舘一花おりだていちかさん」

「そ、そうだけど……え!? じゃあ、そっちの男の人は、妖精さん!?」

「違う」

「え!? 狼の妖精さんなんじゃないんですか!?」


 人間だった時の姿の時のように、狼姿もイケメンだと感じときめく一花に対し、綺夜子はかわいた笑いをこぼす。


「……ちょっと話がややこしくなりますが、彼は少し特異な存在なんです」

「特異な存在?」

「ええ……はく、失礼します」


 パチン、と指を綺夜子あやこは鳴らす。

 するとはくが人間の素っ裸姿になって一花は顔を隠す。


「うわぁ!! ふ、服着てください!!」

「……つがいよ」

「わかっています」


 はくさんの服は綺夜子あやこさんが指を鳴らすと、一瞬で元通りになった。

 魔法使いって、本当に実在したんだ。いや、もしかしたらただの手品? ……でも、手品師をお父さんが紹介するわけないし。


「……こう見えて私は魔法使いなんですよ」

「そんな、御伽噺おとぎばなしじゃないんですからっ……本物の魔法使いなんてどこにもいませんよ。今のだって、何かわたしをびっくりさせる手品でしょ?」

 

 ……まさか、ね? 冗談じょうだん、のはずだもん。

 理解者風の言い方をして私を騙そうとしているようにしか見えない。


「信用できませんか?」

「えっ、それは……」

「なら、一度私の家に向かいましょうか」

「え? い、いいんですか?」

「はい、すぐ行けますので……着いてきてください」


 私は席から立って彼女を案内した。

 細やかな装飾そうしょくほどこされている白のとびらだ。一花さんは戸惑いながら尋ねる。


「ふ、普通の扉だと思いますけど……?」

「では、行きましょうか」


 扉が開かれ、そこには森と一つの屋敷が広がっていた。

 屋敷は木造建てで、海外の田舎の建物っていうより別荘に近い外観だ。まるで御伽噺おとぎばなしに登場する屋敷と言われたら「うん、これこれ!」と、私なら納得してしまう。近くには花畑も色とりどりに咲き誇っている。

 花の種類に詳しくない私でも、木々と花たちの優しい香りが鼻腔びこうに通っていく。それがよりメルヘンチックっぽさを演出しているように見えて素敵だ。

 だって私が絵本や漫画で呼んだ世界そのものが、目の前にあるのだから。

 一花は驚いて間を置いてから大声を上げた。


「……こ、ここ、どこですか!? なんで二階の扉の先が森に!?」

「私の屋敷のクワイアット邸です。私の意思がなくてはこの屋敷に来れません」

「……って、いうと?」

「つまり、仕事場と自宅を行き来できる魔法の扉、になりますね……普段は倉庫なのですが」


 まだそこまで進化していないVRの世界と表現するには、非現実感を感じざるを得なかった。でも、私はむしろこの不思議は好きだ。

 お母さんが読み聞かせてくれたメルヘンが、ファンタジーが……ここには詰まっている気がしたから。


「これで、信じていただけますか?」

「はいっ」


 でも、わたしたちがいた黒崎さんの探偵事務所は今日も雨だったのに、彼女の屋敷では雨を振っていないから、別の場所なのかな?

 でも、日本ならもう午後の時間だけど……一体この場所はどこにあるんだろう。別の国? それとも魔法的ない次元空間? ……どれだろ。

 でも、今、すごく自分の中で感じているのは。


「……本当に魔法ってあるんだっ」


 ワクワクした気持ちで、胸がいっぱいだ。自然と口角が上がって目の前の光景にわたしはただ、感動していた。

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