黒崎綺夜子の秘匿事件録
絵之色
1頁 語られない物語たち
時刻は深夜の二時。
月明かりが照らす
「……貴方が、依頼人の方ですね」
月の魔力で現れたのか、美女――いいや、魔女がそこに立っていた。
柔らかくお
黒いレースが施された
星の無い夜空のを切り取って彼女の髪として落とし込んだと思わせる長髪は灰色にも映る世界でより鮮明に自分の視界に映り込んだ。質素な黒いワンピースは、彼女をより美しく仕立てられた特別のオートクチュールと呼ぶにふさわしい。
「貴方が、
「はい、そうです……では、参りましょう。貴方の苦悩を、ぜひ私にお聞かせ下さい」
「は、はい」
彼は彼女に導かれるまま、後をついて行った。
依頼人、
「では、こちらにお座りください」
「は、はい」
赤革のソファに座らせて私は対面する形で席に着く。
「
「……わかった」
私は彼女の隣にいる若者の目つきに怯えた。
白髪はまだしも、しかめっ面っぽい顔つきだから、反論のしようがない。黒いシャツに白パーカーとジーパン、というシンプルな組み合わせだけでも若い女性なら美丈夫に映ることもあるだろうが、普通の一般人にとっては不良にも映る。
にこやかに笑って黒崎さんは彼のフォローをした。
「大丈夫です、彼は私の助手なので……
「は、はぁ」
「……それで、今回のご依頼は何でしょう? お名前は、
お茶をスッとスマートに珀が置いて、どうぞ、と綺夜子が言うのに対し、哲隆はど、どうも、とどもりながら
「その……娘が、いじめにあって精神を病んでしまって、不登校なんです」
「病んでいるだけなら、精神科に行くべきなのでは?」
「こ、ここなら、そういうお仕事も詳しいと噂を耳にして来ました! ここしかもう頼れるところはないんです!!」
「落ち着いてください。娘さんのお名前はなんでしょう?」
「……
「一花さん、ですか」
「はい、かわいい子で……昔から、何かを認識しているんです」
「何か、とは?」
「妖精さん、と彼女は言っているんです。一人で何かと話すことが多くて、それを気味悪がった同級生たちにいじめを受けたようで」
「……そうですか」
「黒崎さんは、うちの一花は
「少し、違うかと彼女と会って話してみないとわかりません……お会いしても構いませんか?」
「い、いいんですか?」
「もちろんです、構いませんよ。では後日お会いしに行きますね」
「お、お願いしますっ!!」
涙が込み上げながら、自分は
……彼女ならもしかしたら、娘を助けてくれるはずだ。
私は頭を何度も下げながら、探偵事務所を後にした。
◇ ◇ ◇
「……今回も、
「おそらくは……
事件という物は全て探偵の手によって解決されるべき事件である。
しかし、必ずしも一般人に晒される事件ばかりではない。
「……手配しておく」
「お願いします」
これは誰にも語られない、誰にも知られることない物語。
神秘なる者たちが起こす
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