アルヴェルの誘い
ーーーはぁ、今日は厄日だ。
学院では魔力が無くて入学出来ず門前払い。
やっと学院を出られたと思ったら、今度は突然現れた謎の男が話があると言う。
抵抗する気力も無かったシドは、諦めてこの長身の男に付いて行く事にした。
まぁ、彼の鋭い眼差しは、シドが断った所で、簡単に諦めてくれそうにはなかったのもある。
男に連れられて着いた先は、意外にも賑やかな酒場だった。
外からでも分かる程に活気溢れている。
「奥で話そう」
男はシドの返事も聞かずに、スタスタと店の奥のテーブルへと進む。
シドは店員や客の合間を、右往左往しながら男を追いかけた。
男は壁を背にして椅子に腰掛ける。
シドは男の真向かいにゆっくり座った。
「ご注文は?」
テーブルに着くや否や、店員が声を掛けてくる。
恰幅の良い女店員だ。
「何か食いたいもんあるか?」
男はシドにそう尋ねる。
「あ、えっと…」
そう言われても、シドは初めての酒場だったので、何があるのか分からなかった。
「そうか、来たことないんだな。こいつには特製ステーキ。俺はとりあえず酒をくれ」
男はシドがこの店が初めてだと見抜くと、女店員に手早く注文を告げた。
「あいよ。注文入ったよ〜!」
女店員がそう言いながら厨房の方へ行く。
知らない場所に知らない男と二人。
店内は賑やかだが、なかなかの気不味さがあった。
「あの、それで話というのは?」
沈黙に耐えられず、シドは男に尋ねた。
「まぁそう焦るな。飯でも食いながら話そうや」
そう言うと、男のギョロっとした目が、まるでシドを値踏みしているかの様にジロジロと見つめていた。
「はいお待ち。特製ステーキとベリー酒だよ」
暫くして、女店員は料理を運んで来た。
特製ステーキはなかなかの分厚さで、皿の上でジュージューと音を立てている。
「どうした?遠慮せずに食えよ」
豪盛な料理を目の前に固まっているシドに、男は声を掛けた。
「いや、あの、お金が…」
この料理の値段次第では、シドは家に帰れなくなってしまう。
そう思うと、怖くて手が出せないでいた。
「なんだ。そんな事か。俺が誘ったんだ、俺の奢りだよ。ほれ、食え食え」
この男の目的は分からなかったが、シドもそう言われては仕方ないと特製ステーキを恐る恐る一切れ口にした。
シドがこれまで食べてきた肉料理の中でも、これはダントツで美味しかった。
「じゃあ、そろそろ本題といこうか」
シドが半分程食べ終わった所で、男はそう切り出した。
「まずは、お互いに自己紹介といこうか。俺はアルヴェル。そう呼んでくれ」
アルヴェルと名乗った男がそっと十字傷の手を差し出す。
「シドです。シド・オーカーと言います」
シドも手を出し、互いに軽い握手を交わした。
「…オーカー。この辺じゃ聞かねぇな。何処から来た?」
「ルセ村です。かなり田舎なので、知らないですよね?」
「あぁ、そうだな。何処にあるかもわからん」
ぐいっと酒を一呑みするアルヴェル。
「シド。俺と手を組んで、ひと仕事しないか?」
「へ!?!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます