犯人はアルヴェル

アルヴェルは不敵な笑みを浮かべていた。

だけど、冗談を言っている訳ではなさそうだ。

「手を組むって、僕とアルヴェルさんが??どうして!?」

「まぁ、会って間もない奴からそう言われたら、俺もそんな反応をするだろうな」

十字傷のある手でアルヴェルは頬をボリボリと掻いた。

そして、ゆっくりと語りだした。

「驚かないで聞いてくれ。俺はな、昼間の騒動を見ていたんだ」

昼間の騒動。

そう言われて思い当たる出来事はただ一つ。

3人組に魔法で攻撃された事だ。

「あの場に居たんですか!?」

「まぁな。離れた所で見てたんだが。あんだけ派手にやってたら、気になっちまうだろ?」

ーーー確かに。

自分に向かって来ない魔法だったら、シドも目が釘付けになっていただろう。

「だとしても、何で僕なんですか?僕はただ、やられて、それで女の子に助けられただけで、しかもその後は気絶しましたし」

アルヴェルが全てを見ていたというのなら、散々な目に遭っただけの情けない自分と手を組もうとは言わないだろう。

「問題なのはその後だ。シド、お前は学院に入ったよな?」

「ええ。気付いたら癒術室に」

「今、学院内は厳重な防衛魔法が掛けられていて、部外者が一歩でも入ればヤバイ事になるはずだ。どうしてお前は何事も無く出てこれた?」

「あ!そ、それは…」

それは、シドとミラしか知らない事。

しかし、全て見ていたアルヴェルからすれば当然の疑問とも言える。

ーーーまぁ、言ってもいいのか?

「僕には魔力が無いから、防衛魔法は反応しないそうです」

シドは俯きながらその事をアルヴェルに話した。

アルヴェルは驚いた表情をしていた。

そして、顎を触り、何かを考え出した。

「…なるほどな、そういう仕組みになってるのか」

独り言なのか、シドに言ったのかは分からないが、アルヴェルは納得した様子だった。

「魔力が無い、だから学院の厳重な防衛魔法も発動する事無く、お前は侵入する事が出来ると」

「侵入」という言葉に反応し、シドはアルヴェルを見た。

「シド。やはり俺にはお前が必要だ。俺と手を組んでくれ」

アルヴェルは真剣な眼差しでそう切り出した。

「…僕は、何をすれば良いんですか?」

魔力が無い事を告げても尚、アルヴェルはシドを必要だと言い続ける。

シドも、その理由が知りたくなった。

「…アーテルシア魔術学院に侵入して、ある物を盗んで来て欲しい」

「え!?盗む!?!?」

自身の耳を疑う様な発言だった。

「ああ、そう言った」

ーーーこの人は一体何を言っているんだ!?

頭の中でグルグルと考えが渦巻いていく。

ーーー待てよ。

(昼間の騒動を見ていたんだ)

(離れた所で見ていたんだが)

ーーーそんな偶然あるのか?

シドの頭が少しずつ冷静さを取り戻すと、ある一つの可能性へと辿り着く。

「ま、まさか…学院で噂になっている不法侵入者というのは」

シドの見つめる先、アルヴェルはシドの疑問に対して深い溜め息を吐くと、お手上げのポーズを取る。

「そうだ。それは俺の事だ」

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