散々な一日 その⑤

「また不審者と思われて、誰かに攻撃されない様に、私が門まで案内しよう」

傷が治ったので、シドは学院の外に出る段取りとなった。

最初はソフィーナが付いてくると言っていた。

だがそれは、シドが部外者であるという事でミラより却下される。

例え、この学院のナンバーワン人気を誇る彼女であっても、部外者を連れて学院内を歩いていれば、不審者を手引したと勘違いされ、学院から追い出されてしまう可能性を危惧したのだ。

癒術室まで何事もなく来られたのは、空を飛んでいた事と、たまたま誰にも見つからなかった幸運が重なった結果であって、今は状況が違う。

それに、教授という立場の者が一緒なら、誰かに見つかったとしても怪しまれる事はないだろう。


「よろしくお願い致しますわ。ミラ教授」

ソフィーナはミラに深いお辞儀をした。

そしてシドを見る。

「ではまた。何処かでお会いできる日を楽しみにしておりますわ」

ニッコリと笑って、空に舞い上がり、手を振りながら去っていく。

「あの、彼女、なんで喋り方がさっきと違うんですか?」

シドは先を歩くミラに尋ねた。

室内で喋っていた時、シドは全く気付かなかったが、外に出るや否や、ソフィーナの喋り方が変わっていた。

ーーーそういえば、あの3人組と対峙していた時も、さっきの喋り方だったな。

「あぁ。あれな。ナンバーワンアイドルも辛いって事さ」

ミラはケラケラと笑っていた。

「室内での喋り方の方が本当の彼女だよ。ちなみに、キミはどっちの彼女が好みかな?」

ミラは悪巧みを考える子供の様な笑みでこちらをチラリと見た。

「はは。ミラさんは外でも変わらないんですね」

答えるのは気恥ずかしかったので、何とか誤魔化す。

「この小一時間で、もうそんな躱し方を覚えたのか。可愛げがないなぁ」

ミラは少しつまらなさそうにしていた。

シドは嬉しかった。

門を出てしまえばそれまでの関係だと分かっていても。

まるで生徒の様に接してくれるミラの態度を。


大きな扉を開けると、外に出た。

見覚えのある場所、門前の広場だ。

簡易的に設営されていたデスクは、もう何処にも見当たらなかった。

「じゃあ。ここでお別れだな」

「はい。お世話になりました」

夕日に照らされた校舎が眩しい。

シドは、ミラが校舎の中に入っていくまで、その姿を見つめ続けた。

そして、名残惜しいが、アーテルシア学院を後にした。


ーーーそれにしても。

散々な一日だったなとシドは思った。


「よう。ニイチャン」

アーテルシア学院を出て角を曲がった瞬間、そいつは声を掛けてきた。

すらりとした体型、コケた頬に疲れたような顔付き、手の甲に大きな十字傷がある。

「少し話そうか」

シドの長い長い一日は、まだ終わりそうになかった。

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