散々な一日 その④

女子生徒は目を擦り、大きな伸びをした。

その際に、ブラウスからチラリとヘソが見え、胸が大きく強調される。

シドはサッと目を逸らした。

「あ!良かった〜!傷、治ったんだね。心配したんだよもう」

シドが起き上がってるのを確認して、ホッとする女子生徒。

「あ、あの。ありがとう、ございました。その、助けていただいて」

ちゃんとお礼が言いたかったシドだが、気恥ずかしさの方が勝ってしまい、しどろもどろになっていた。

「気にしなくて良いんだよ。まぁ、ここまで運んで来るのは大変だったけどね」

女子生徒は左肩を右手で揉み解しながら応えた。

そんな二人のやり取りを見て、女性はニヤニヤとしている。

「ソフィーナくん。学院のアイドルであるキミが、男子を運んで、しかもその寝顔を見せたなんて。ファンの皆が知ったら、さぞ大事だろうなぁ」

「ちょっ!!ミラ教授!それは内緒だってば!」

ソフィーナと呼ばれた女子生徒は顔を赤らめて、手をワタワタとさせていた。

「アイドルって?」

何の話なのか、シドにはわからなかった。

「ふふ。彼女はな、超が付く程、人気者なのさ。この学院のナンバーワン。キミは色々と運が良いなぁ少年」

ミラと呼ばれた女性はわざと「色々と」を強調して、からかう様に笑っている。

「それはもう、学院の男子生徒全員から魔法で集中攻撃されてしまうかもな」

「ミラ教授!からかわないでください!」

「はは、ははは」

そんな状況は想像したくないが、その光景が頭に浮かんでしまったシドには、乾いた笑いしか出なかった。


ミラによる最終チェックが行われた。

身体を捻ったり、伸ばしたり、動かしたりと一通りの動作を確認し終える。

「うむ。問題なさそうだな」

紙に何かを書き込みながら、ミラはシドにそう言った。

「今回の件は、我々の責任だが。学院としては面子を保つ為にも、この事を公にはしたくない。キミが何も無かった事にしてくれればの話だが」

先程までのやり取りとは一転、ミラは真剣な眼差しでシドを見つめる。

確かに理不尽な目にあった。

だけど、学院を不審にフラついていた自分にも落ち度がある事もシドは分かっていた。

そこで、自分に取っての落とし所、というより最大の疑問を聞くことにした。

「…一つだけ、聞かせて下さい」

シドも真剣な眼差しでミラを見つめた。

「人間はエルフに何をしたんですか?」

あのエルフ、ジェイクと呼ばれた男子生徒の怒りは尋常ではなかった。

その理由をどうしても知りたかった。

それを聞ければ、納得出来そうな気がしたからだ。

ソフィーナは気不味そうにしている。

ミラは少しだけ俯き、そして少し悲しげに笑った。

「…キミが気にする事ではないよ。もう何百年も昔の事さ。終わったんだよもう」

ミラは目を閉じて、また開け、深い深い溜め息を吐いた。

「エルフ族が皆、ジェイクの様に人間を嫌ってるとは思わないでくれ。何百年も前の事を何時まで経ってもネチネチと。忘れられない頭カチンコチンの分からず屋達だけだよ。ジェイクがその派閥なのは意外だったけど」

やれやれと言わんばかりに、ミラは首を横に振った。

「…そう、なんですね」

シドとしては、もう少し具体的な話が聞きたかったが、そんな言い方をされてしまった以上、深く追求する事はできなかった。

「…ミラ教授もね!エルフなんだよ!」

重くなった空気を変えようと、ソフィーナが助け舟を出す。

「へ!?そうなんですか?」

シドの驚き様にミラはニッコリと返す。

「ハーフだけどな」

その長い髪の耳元をかき分け、少し尖った耳を見せながら、はにかんでいた。

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