散々な一日 その②

売女ビッチ」。

それはどんな女性であろうと、言われたくない罵詈雑言の第一位を占めるであろう。

そして、この女子生徒もまたその一人である。

否、彼女の場合は禁句とかそういう次元だった。

何故なら、彼女は天使族エンジェル

使えるべき御方カミサマが存在している種族だ。

なのでエルフが言った「召使い」という暴言は、まだ許せる範囲。

だが「売女ビッチ」は完全にアウト。

「誰にでも分け隔てなく平等に」だけであって。

貞操感が軽いというわけではないのだ。


空気が凍りつく。

そんな気配をシドは、感じ取っていた。

女子生徒の後ろに居るシドがそう感じていると言う事は、当然だが、女子生徒と対峙する三人組はより一層、その空気を感じ取っているはずだ。

エルフは、やってしまったと言わんばかりの顔付きをしており、トカゲも黒豹も明らかに恐怖で顔が引きつっている。

「…今、何と仰いましたか?ジェイクさん。よく聞き取れませんでしたわ」

シドからは女子生徒の顔は見えない。

見えないが、シドには分かる。

平静を装いながらも、目の前の女子生徒が般若の如く怒っている事が。

「もう一度、言ってくださいます?」

殺気を感じるそんな一言。

絶対に、同じ言葉を口にしてはいけないのが如実に感じ取れる。


「な、なぁジェイク、もう止めようぜ?」

緊迫した雰囲気に耐えきれず、最初に喋ったのはトカゲだった。

「そ、そうそう、今回はオレ達の勘違い。あいつはただの迷子だそうだし」

それを好機と悟り、便乗する黒豹。

「あの迷子野郎はソフィーナさんに任せて、俺達は寮に帰ろう?な?な?」

諭すように…否、これ以上怒らせてはいけない相手の逆鱗に触れない様に、トカゲと黒豹はエルフを説得する。

エルフはと言えば、己の中で葛藤している、そんな顔をしていた。

「…あぁ、そうだな」

だが、ついに彼も、最後の一線を越える事はしなかった。

エルフのその言葉を聞くや否な、ガシッと黒豹がエルフの腕を掴んだ。

「じゃあ、オレ達は帰るぜ。アバヨ」

トカゲもそれに便乗し、エルフの気が変わらない様に、後ろを振り向かせる。

「これに懲りたら、不審な行動は控えるんだな!ニンゲン」

その鱗の手をヒラヒラとさせて、そそくさと退散をしだした。


「ま、待ちなさい貴方達!」

大声で女子生徒が止めに掛かるも、3人の足取りは早く、その背中は小さくなっていた。

「はぁ…全く。後でジブラ教授にお伝えしなきゃ」

腕組みをしながら深い溜め息を吐く女子生徒。

ーーー終わった?助かった?

シドは安堵した。

そして、その瞬間異変が起きる。

ーーーうぁ、何だこれ?…視界が。

命の危機を感じた脳内が、アドレナリンなどをドバドバと出していたので、今の今まで立っていられたが、シドはかなりの怪我を負っていた。

ドサッと膝から崩れ落ちる。

ーーーダメだ…意識が…。

慌てた女子生徒が近寄って来て、何かを言っているのを、ボヤケた視界で見つめながら、シドの意識は遠のいていった。

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