√2 ちょっとだけ見て周ろう

「…魔法の適正が…ゼロ!?」

中略。

「次の方、どうぞ」


「…はぁ」

ーーー結局、何も言い返せなかった。

シドは深い溜め息を吐き、トボトボと歩いていた。

何せ夢の第一歩をあっさりと否定されたのだから、無理もないだろう。

そして、アーテルシア学院の校舎をチラリと見つめる。


※※※※※※※※※※※※※※※

ーーー折角来たのに、このまま帰るのもな。

ーーーちょっとだけ見て周ろう。

シドは、アーテルシア学院内を少し探索する事にした。


学院内は、かなりの広さがあり、設備も充実している雰囲気だった。

噴水のある校庭に辿り着くと、学院の生徒達が数名いた。

学院の生徒達は校舎と同じ、白を基調とし、水色や緑色のコントラスト、金の装飾を施された制服を身に纏っていた。

生徒の中には、エルフ族や獣人族もいる。

各々が、自由に優雅な一時を過ごしている。

すると、一組のカップルが、周りの目も気にせずにイチャイチャとしだした。

何だか気まずい雰囲気になり、シドはその場を足早に去った。


今度は行き止まりに辿り着いた。

完全にシドは迷子になっていた。

「まいったな…出口は何処かな?」

引き返そうと、後ろを振り返ると、人影が見えた。

「あの!すみません!!」

慌てて声をかける。

「あ???」

シドは、しまったと感じた。

明らかに、人相が善人では無さそうな3人組だった。

否、人ではない。

別の種族だ。


「見ない顔だな」

爬虫類のトカゲにそっくりな顔の男が言う。

「こいつ入学者じゃね?今日は審査日だろ?」

こっちは黒豹にそっくりな顔。

「んじゃ、何でこんなとこにいるんだ?」

「俺が知るかよ」

二人が顔を見合わせて、あれこれ話し合う。

そこへ、最後の一人が二人の男の前に立った。

弱(人)族ヒョーマンか」

横長の耳に金髪、青緑の瞳。

端正な顔立ちのエルフ族だ。

弱(人)族ヒョーマンとエルフが言った途端、後ろの二人は、顔を見合わせてニヤニヤと笑みを浮かべた。

「キサマ、こんなとこで何をしている?」

シドを、まるで汚物を見る様な顔で、睨み付けながらそう続ける。

「あ、ごめんなさい、道に迷っちゃって!…出口を教えて貰おうと思ったんですが、忙しいですよね?自分で探しますので、じゃあこれで!」

シドは身の危険を感じ取り、会話を早口で終わらせて3人組から離れようとする。

「…待て!」

が、案の定、呼び止められてしまった。

「何でしょう?」

シドは愛想笑いで誤魔化そうとしていた。

「何故、出口なんだ?入学者なら寮のはずだ?違うか?」

「…リョウ?」

エルフが質問した意味が分からず、シドはキョトンとした顔で聞き返す。

それに対して、3人組はそれぞれの顔を見合わせる。

エルフが、何かを確信した様にニヤっと笑った。

「キサマ、入学者じゃないな?」

その質問に、嘘を吐く理由がシドには無かったので。

「そ、そうだけど?」

と返してしまった。

シドの答えに、またもニヤリと笑みを浮かべる3人組。


ーーー何だ?

空気が張り詰めていく気配をシドは感じ取った。

「おまえたち、部外者がここまで来たって事は、つまりどういう事か。わかるか?」

エルフがシドを見据えたまま、後ろの二人に話し掛ける。

「そらぁ勿論。不法侵入者…って事だよな!?」

「ああ、その通りだ」

シドは、不法侵入者というワードに、ただならぬ雰囲気と敵意を感じ取った。

「ま、待って!僕はただ迷ってーー」

「やれ!!」

「しゃぁぁぁ!火球ファイアボール!」

問答無用とばかりに、エルフが合図をすると、トカゲが口をあんぐりと開ける。

間髪入れず、その口の中から、火の球がシドに目掛けて飛んで来た。

「うわ!!」

間一髪、シドはそれを転ぶ様にして避ける。


ドーーン!!

爆発音と共に土煙があがる。

「危な!何だ今の?」

野球ボールくらいのサイズの火炎は、地面に当たっただけで、その場所が抉れている。

ーーーもしも、これが身体に当たったら…?

考えただけで、背筋が凍り付く。

「へぇ?なかなかやるな。だがこいつはどうかな?」

黒豹がそう言いながらシドにゆっくりと近付いて来る。

その両手には、小さな小さな竜巻ハリケーン

「そ、ら、よ!避けてみな!!」

二つの竜巻ハリケーンを一つ、また一つと順番に投げる様にしてシドに飛ばす黒豹。

「な!?」

真っ直ぐにこちらに向かって来るかと思われた竜巻ハリケーンは、シドの思惑とは裏腹に、右へ左へ不規則な動きをしながら迫る。


ザクザクザクザク。

この変則的な動きを読み切れず、シドは両腕でガードする事でこの竜巻ハリケーンを対処する事にした。

それは、まるで無数の鋭い爪で引っ掻かれているかの様な痛みで、両腕に無数の引掻き傷が出来た。

傷跡から、だらりと血が流れる。

何とか竜巻ハリケーンの猛攻を耐えたシドは、次の攻撃に備える為、3人組の方を見る。

ーーーえ??いない!?

トカゲも黒豹も、シドの方を見てただニヤニヤと笑って立っている。

しかし、エルフだけが忽然と姿を消していた。

ーーー何処に!?

右、左と辺りを見回すも、やはり何処にもエルフはいない。

『やれやれ、やはり人間という種族は』

何処からともなく、否、シドの直ぐ側で男の声がする。

『弱くて』

それは、先程のエルフの男と同じ声。

『愚かで』

声は同じだが、まるで水の中から話し掛けられているかの様な声質だった。

『醜い』

ーーーこれは、もしかして姿を消しているのか?

シドはどうにかしてエルフを見つけようと頭を右へ左へ後ろへと動かす。

エルフ「下等種族だな」

はっきりと聞こえた声は、シドの真後ろ。

振り返ろうとしたシドに対して、エルフは強烈な蹴りをくらわせる。

シド「ガッ!」

反応しきれず、ゴロゴロと転がるシドを見て、トカゲと黒豹が爆笑する。

「…っく!クソっ!」

立ち上がろうとするシドの目に止まったのは、エルフ男の左手。

黒い塊、そしてその周りを時折疾走る、蒼白い光。

その光はバチバチと音を立てている。

魔法の知識が無いシドでも、これはヤバいと感じた。

「…死ね」

黒い光線が、一直線にシドへ向かって来た。

シドにはどうする事も出来ず、またも両腕でガードしようとする。

ーーーいや、これは無理か。

本能的にそう悟った。

自分はここで死んでしまうという事を。


バチバチバチバチバチ!!!!!

眩しい光が眼前に広がり、シドは目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る