あの日、あの時。

「もーーいーーかーーい?」

「まーーだだよーー!」


子供の遊んでいる声がする。


「もーーいーーかーーい?」

「まーーだだよーー!」

とても暖かく、穏やかで、平和な日。

「もーーいーーかーーい?」

「まーーだだよーー!」

…いや、違う。

「もーーいーーかーーい?」

これは…。

「もーーいーーかーーい??」

僕の悪夢トラウマだ。

「もーーいーーかーーい???」


それ以降も、僕は何度も問いかけた。

「もういいかい?」と幼馴染のノルンちゃんの名を。

けれど、返事はなく、ただ風が木々を揺らす音だけが聞こえる。


とにかく探してみようと、周辺をキョロキョロと見回していく。

どのくらい探しただろうか、段々と不安になって、僕は涙と鼻水でグシャグシャになりながらも、ノルンちゃんの名前を呼んだ。


それでも、ノルンちゃんは見つからず、僕は泣きながら、家に戻った。


僕のただならぬ様子に、両親は一体何があったんだと聞いてきた。

僕は、たどたどしくも、かくれんぼ遊びをノルンちゃんとしていた事。

急にノルンちゃんが返事をしてくれなくなった事。

探したけど、全然見つからない事を両親に告げた。


両親は二手に分かれ、母さんはノルンちゃんのご両親の家へ、父さんは僕を連れて村長の家へと行った。


事情が分かった村長と、父さんは、村中の人達に声を掛けてくれた。

そうして、村中の人達全員で、ノルンちゃんの捜索が始まった。


「大丈夫だシド!皆で探せばノルンちゃんは絶対見つかる!だから心配するな」

父さんのその頼もしい言葉に、僕は勇気付けられて、涙顔をゴシゴシと腕で拭きとった。

村中の人達が探してくれるんだ。

絶対見つかる!


雲行きが怪しくなったのは、日が暮れてきた時だった。


村中の人が険しい顔付きになり、互いに状況を報告し合っては、また探しに行く。


夜になり、松明を持っての捜索になると、表情に疲れが見え始めた。


僕達二人が、かくれんぼ遊びをしてた周辺は、隈なく探したので、捜索範囲を広げていく。

だけど、一向に手掛かり一つ見つからない様子だった。


やがて、誰かが「今日は、もう遅いから、明日の陽のある時にしよう」と言い出した。

皆、疲弊していたので、誰も文句を言わなかった。

僕には、どうする事もできなかった。


次の日の朝も、夜まで捜索し、更に次の日も丸一日捜索したが、進展はなかった。


ノルンちゃんが居なくなって、4日目。

村長は村中の人達全員を広場に集めた。


村長の話は、幼い僕でも理解できた。

皆が頑張って捜してくれた事への労いの言葉。

そして、これだけ捜しても見つからないという事への最終的な決断。


ノルンちゃんは行方不明の末、モンスターか事故に遭い、死んでしまったとする事。


僕は叫んだ。

そんなの嘘だと。

ノルンちゃんは生きてるんだと。

でも、そんな僕の事などお構い無しに、ノルンちゃんの細やかな葬儀が村で行われた。


皆、悲しんでいた。

ノルンちゃんのご両親もいっぱい泣いていた。

それを見て、僕は大泣きした。


…僕のせいだ。

僕が、あんな遊びに誘わなかったら…。


「ねぇ、シド君と遊ぶとユクエフメイになって死んじゃうんだよ」

「シドは人殺しだ」

「あいつとは遊ばない方がいいぜ」


誰かがそう言ってるのを聞いた気がする。

だから、僕はもう、誰とも遊ばなくなった。


…いっそ、僕なんか、いなくなっちゃえば。


「シド!何やってるんだ!!!」

バシッ!!

何かが飛んできた。

カランカランと金属製の物が床に転がり落ちる音。

いつの間にか、僕の目の前には、僕の両親とノルンちゃんのご両親がいた。


「あれ?…僕は…」

ナニヲ、シヨウト、シテタンダッケ?

左頬かジンジンと痛み出した。

それで、ようやく我に返る。

僕はいつの間にか、キッチンにあったナイフを手に取り、自分の心臓を突き刺そうとしていたんだ。

そして、今それを父親にビンタされて止められた事を認識できた。

状況が僕の思考回路に追いつく頃に、ノルンちゃんのご両親が僕の手を握ってくれた。

さっきまで、ナイフを握っていた手だ。

「そんな事をしても、あの子は喜ばない」

ご両親は涙を流して、そして僕を抱きしめた。

「あの子の為に死ぬ覚悟があるのなら、あの子の為に生き続けて、立派になって欲しい」

その言葉が、僕の心をゆっくり、ゆっくり癒していくのがわかった。

僕はまた泣いた。

大泣きした。


僕はそこでやっと、受け入れた。

ノルンちゃんの死と、自分のした事と、僕が出来る精一杯の責任の取り方を。


ーーガタッ!ガタン!


その衝撃で、僕はゆっくりと目を開けた。

車輪の軋む音、馬の足音。

時折、ガタガタと身体を揺らす振動。

どうやら、馬車の揺れが心地よくて、つい寝てしまっていたらしい。

僕は伸びをすると、馬車の窓から見える景色を眺めた。

まだ王都に着くには、もう暫く掛かりそうだ。


馬車内に目を向ける。

なかなかの広さがあって、そこに僕を入れて7人程が乗っていた。


この馬車は、トニヤ町から王都まで行く為だけに走っている、誰でも利用できる馬車だ。


僕が育った村は、トニヤ町の向こうの向こうの向こうの更に向こう。

ルセ村っていう所で、トニヤ町まで辿り着くのも結構大変だった。


村に偶にやって来る行商人に乗せてもらったんだけど、トニヤ町まで着くのに5日くらい掛かった。


…それまでの食費、宿泊費、乗せて貰ったお礼。

王都に行くのに、父さん母さんから貰った【リティ】の半分以上使ってしまった。


でも、この馬車に乗ってしまえば、後は王都に着くのを待つだけだ。

僕は再び、目を閉じて眠る事にした。

今度は良い夢だと良いんだけどな。


旅立ちの日、僕はノルンちゃんのお墓まで行く。

花を一輪、そっとお墓に添える。


君だけに誓うよ。

僕は偉大な魔法使いになり、いつかきっと君を救い出すと。


ーーー以下省略。


「…あー。君、魔法の適正ゼロみたい。残念だったね」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【リティ】はこの国の通貨の総称です。

全て硬貨で、白金製、金製、銀製、銅製で出来てます。

白金に行くほど価値は高いです。

個別名称は白金がプルム、金がゴルム、銀がシルム、銅がカルム。

安直ですね(笑)

覚えなくて大丈夫ですよ。

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