第27話 他人のフリ
ボクは今日、中学の時から付き合ってきた彼女と別れた。
心は少しは痛む、けど叩かれた頬はもっと痛む。
彼女と別れたからって、周りの人が全員いなくなるわけじゃない。
ボクのことを疑ってたらしいし、このまま付き合ってても、ストレスになるだけだと思うし……。
ずるずる行くよりは全然いいよね。
ボクはそんなことを思っていた。
ふと後ろを振り返ると、兄さんが絵馬のことをおんぶして、正門から去って行くのが分かった。
「は? なんなんだよアイツ……」
自分の声が出ていたことにもびっくりだが、兄さんが……。
あの兄さんだぞ? 高校で友達もロクにいなくて、頭も良くなくて、部活も何もやってない、ダメ人間だぞ。
ボクが分かれた途端、良く思われたいか。
いや、絵馬のことがまだ好きなのか?
そう考えた時、無性に怒りが込み上げてきた。
絵馬と別れて嫉妬してるとかじゃなく、ハイエナのような群がっているように思えて気色が悪い。
「兄さんめ……」
ボクは自分の家には帰らず、兄さんの家に行くことに決めた。
文句を言ってやるんだ、いつものように嘲笑ってやる。
◆
女友達が一緒したいと言っていたが、こんなことにつき合わせることはできないため断った。
それに、兄さんに文句言いに行くなんて口が裂けても言えないからね。
「ったく、自分だけ一人暮らしなんて」
「あれ、古賀さん? どうしたんですか?」
ボクの名前を呼ばれた方向を見ると、長くさらさらの髪の毛に、大きな瞳、艶のあるきめ細やかな肌。
美少女と言うのには、文句のない人物が立っていた。
その女の子は不思議そうな表情できょとんとしている。
なんだろう、物凄く可愛く感じる。
前までなら彼女という二文字が頭をよぎったため、変な気は起こさなかったが、今はそんな女の子はいない。
だからここで、彼女を狙っても……。
「あの……本当にどうしました?」
そうだ、この子は前に会ったことがある。
兄さんの隣に居た、可愛い女の子だ。
兄さんの部屋の隣に住んでるのか……。
ボクはそこでいいことを思いついた、兄さんのフリをして、この子との関係を終わらせてやろうと考えた。
兄さんがあんな行動に出たのも、テストの点数が良くなっていたのも、全部この人のせいかもしれない。
「あぁ、別に考え事、ぼ、俺さ、何か変なところない?」
「えっと、別にありませんが」
ボクがそう言うと、瀬川さんは冷たい視線でボクのことを見てくる。
バレてるのか? いや、そんはずはない、双子だし彼女は学校に来て1年も経ってないし。
「てか、斗真のやつまじでウザいわ」
「……きゅ、急にどうしたんですか?」
「いや、あんなに可愛い子を振るなんてもったいないと思わないか? 俺が前まで好きだったのに」
「え、えっと……」
動揺してる、よし、このまま畳みかけて……。
「あ、あのっ! ど、どうして一真くんの真似をしているんですか?」
「は、は? や、やだなー俺が一真だよ」
「全然違いますよ、顔は似てますけど私は一真くんの顔の方がタイプです」
「はぁ~、あんな奴のどこがいいんだか」
もうやめた、最初からバレてたと思うとばかばかしく思える。
てか、気づいてたんなら早く言えよ。
「ほら、また悪口」
「なに? 本当のことでしょ?」
「あなたと一真くんでは全然違いますね、行動とか制服の着こなしとか一真君はだらしないです」
「だからなんだよ」
「でも、あなたの悪口を言ったことはないですよ? むしろ凄いんだとか、自分はダメな方だとか卑下するんです」
彼女は心底楽しそうに、嬉しそうにそんな話をする。
ふざけんなよ、どうして俺がこんな気持ちにならないといけないんだよ。
努力して高校では人気者の俺がダメ人間の兄さんとは天と地の差があるのに、どうしてこの女は……!
「双子で顔は似てるのに、性格は全く似てないんですね」
「なんだと、このっ!」
「触らないでください、他人に成りすまして話そうとしてくる人と、仲良くするつもりはありません、それに……」
「……なんだよ」
彼女は言葉に詰まって、すこし恥ずかしそうに、頬をほんのり赤らめながら口を開いた。
「ふふっ、最後のはただの私事なのでなんでもないですっ」
くしゃっと笑った笑顔をだけが俺の頭に残った。
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