第24話 メイド服という名の報酬

 あっという間に中間テストが終わり、学年の順位が張り出された。

 しかし、学校の壁に順位が張られるのは上位30からである。


 100位以内は学校で発行される学年新聞で載せられる。

 まぁ、希望を出せば匿名にしてもらえたりする。


「やぁ。兄さん」

「よぉ、弟」

「テストはどーだったんだい?」

「まぁ、ぼちぼちだな」


 斗真が小ばかにしたような感じで聞いてくる。

 俺はそんな斗真の顔を極力見ないようにしながら話す。


「そっか、それならよかったんだね」

「なんでだよ」

「だって前までの兄さんなら、別にとか、関係ないだろとかしか言ってなかったから」

「あっそ」

「あははははっ、そんな感じ」


 調子が狂う。

 コイツと話していると、兄弟なのに、いつからこんな風になったんだ。


 そんなことを考えていると斗真が女子生徒から呼ばれた。


「じゃあね、兄さん」

「おい、彼女のこと大切にしろよ」

「…………兄さんに言われなくても、そっちも大切にしなよ? 取られちゃうかもよ?」


 その不気味な笑みに俺は心の中を見透かされているような、ぎゅっと握られているかのような感覚だった。



「おう、一真テストどーだった? よさげな感じがするなぁ」

「木崎の方はどーだったんだよ、テスト終わった後、青ざめてたろ」

「はははっ! 赤点は一つしかない!」

「そこは、ナシであれよ」


 まぁ、赤点常連だった木崎が赤点が一つしかないということで、クラスの連中からも、教師からも驚かれていた。


 しかし、それより驚かれていたのは俺の方だ。

 自分で言うのもキモいが、ひそひそ話がとても聞こえる。


「それでどうなんだ? なんか順位がよければナントカみたいなこと言ってなかったか?」

「あぁ、順位が2桁だったら、ご褒美という名の報酬がもらえる」

「なるほどなぁ、その報酬というのは?」

「それは教えん、企業秘密だ」


 教えられるわけがない。

 あれから考えたんだが、普通にご褒美なんてあるわけなくないか? それにそのご褒美にメイド服なんてものを選んでいる俺が一番キモイ……。


 しかぁし、しょうがないことなんだ、欲望には勝てない。


「ふふっ、凄いですね。頑張った証拠ですね」

「ま、まぁ……誰かさんがやる気にさせてくれたからな」

「ん? それは俺か?」

「なわけないだろ」


 何の曇りもない笑顔を向けて俺に聞いてくるこいつはある意味、天才だ。


「なんだ、あいつが……」

「最近まで最下位近かったのに……」

「アイツの問題だけ簡単なんじゃね?」


 そんな言葉が聞こえてくる。

 しかし、こうなったとしても俺には一ミリも効かない。


 今はそんなことよりも、メイド服効果のバフがついているため、俺はいま無敵である。


「気にしなくていいですからね?」

「え、あぁ……周りの言う事にか?」

「はい、あぁやって人の努力を素直に認めない人は一定数いますから」

「相手のことを認めないってのはさ、逆に相手のことを認めてることになるよな」

「ふふふっ、さすが一真くんですね、たしかにそうかもしれません」


 負け犬の遠吠えと言ったら口が悪いが、俺はそう思ってしまう。

 相手のことを認められるうちは、自分に余裕があるという事。

 相手のことを認められなくなったら、それは自分に余裕がなく、焦っていると感じてしまう。


 まぁ、俺の場合極端すぎるが。


「さすがって、俺の考えは極端すぎるだろ」

「たしかに、考え方が極端だなとか、言葉が悪いなとかは思いますけど私に持っていない考えを持っているので、尊敬しているのですよ?」

「や、やめ……やめろっ、そんなことを学校で言うのは」

「じゃあ家ならいいのですか?」


 誰が揚げ足をとれと言った。

 あーもう、照れ隠しだよ! 意識してるのか無意識なのかわからないが、勘弁してほしい。


「こ、これを着るんですか……?」

「やっぱりダメか?」


 俺が届いたメイド服を渡すと、瀬川は困ったようにその服を見ている。

 露出面積が非常に少ない物を選んだつもりなんだが……。


「約束しましたからね、いいですよ」

「本当かっ?」

「はい、ですからそんな表情かおしないでください」


 この為に頑張っていたから、もし無理だったら3日は引きずる。


「もう、着替えてきますから、そこで待っててくださいね」

「もちろんですっ」


 敬礼のポーズをし、ワンちゃんの様に瀬川が着替えてくるのを待っていようと決めた。


 しかし瀬川はそんな俺に不信感を覚えたのかクルッと振り返って、目を細めながら口を開く。


「覗いたりしたら、ナシですからね?」

「も、もちろんです」

「それでは、待っててくださいね」


 ぱたぱたと足音を立てて、自室へ向かって行った。


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