第23話 最高のご褒美の予定

 バクバクと心臓の鼓動が速くなり、汗が出てくる。

 自分が自分じゃない感じがする。


 頭がフワフワするというか……なんというか。


「あ、あの……」

「なんでしょうか?」

「勉強のことなんですが」

「あ、勉強ですか」


 瀬川の言葉に俺はがっかりする。

 そして彼女はそんな俺の顔を覗き込むように見てくる。


「えっと、やる気が出ないなら、何かご褒美があればやる気が出ると思うんです」

「ほう? ご褒美か」

「はい、それなら集中力の足りない一真くんでも頑張れると思うんです」

「そのご褒美というのは」


 一番大切なのはご褒美の内容だ。

 俺がやる気を出すかどうかは、このご褒美にかかっている。


「えっと、いっぱい食べるとか、甘い物を食べるとか好きなことをするとかですかね」

「健全だ……良いんだがよくない」

「え、えっと……」

「それじゃあやる気にならないと思う」


 自分で言うのも恥ずかしいが、その程度はご褒美ではない。

 瀬川からしたらご褒美だと思うが。


「そうですね……じゃあ私がなにか一つしてほしいことしてあげます」

「え、今なんと?」

「何か一つしてあげます」

「ま、マジですか……」


 なんという幸運、こんなことあっていいのか? いや、いい!

 あんなことや、こんなことなんかを……。


 そんな俺のやましい思考を読み取ったのか、瀬川は身を隠すように腕でガードしている。


「え、えっちなことはダメですからねっ!」

「――――っ! ば、ばかっ! そんなこと考えてなんか……ない」

「なんですか今の間は、怪しすぎます」

「と、とにかく、それ以外ならいいんだな?」

「わ、私ができる範囲でよければですけど……」


 すこし不安になったのか瀬川は、私ができる範囲と指定をしてきた。

 まぁ、瀬川にできる範囲……無難に好きな物を作ってもらうって言うのでもよかったのだが……。


「こ、こういうのって頼めたりできますかね……」

「どれですか?」


 俺は瀬川に恐る恐る、スマホで画像検索したものを見せる。

 しかしこんなお願い、半ば諦めていた。


「こ、これですか……?」

「はい――――ってやっぱりだめですよねー」

「いいですよ?」

「……え? マジで?」

「はい、マジです」

「え、えっとこれだよ? 


 そう、俺がお願いしたのはメイド服のコスプレだ。

 だからこそ、絶対に無理だと感じていた。


 でも考えてみてくれ、長く細い髪の毛に、スタイルの良さ、そしてなにより瀬川には品がある。


 こんなのメイド服が似合わないわけがない。

 俺の切実な願いがまさかの叶ってしまった。


「ただし、条件があります」

「ま、またですか……?」

「またとは何ですか、私はこの服を着せられそうになっているんですよ?」


 それはそうですと、ぐうの音も出すことができない。

 本来ならば、こんなことはあり得ないのだ。


「そ、その条件とは」

「次の中間テストの順位で二桁に入ってください」

「え、それ厳しくないですか?」

「じゃあメイド服は諦めてくださいね?」


 あぁ……メイド服が……。

 メイド服姿の瀬川が遠くなっていく。


「よし、わかったその条件を飲もう」

「はいっ、じゃあ頑張らないとですねっ」

「そ、そうだな……なんか喜んでないか?」

「やる気になってくれて嬉しいだけです」


 俺がやる気になるのがそんなに嬉しいのか?

 あれか、自分の力で無気力系の仲間を動かす的な。


 俺は今回の中間テストはこれまで以上に気合を入れることを決心した。

 それと同時に、メイド服の購入を済ませた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る