第22話 勉強会 パート1
「それじゃあ全員集まったことですし、勉強会を始めましょうか」
「そうだねー、私もわからない所教えてもらいたいし」
「はい、ドンドン聞いてくださいねっ」
胸をポンと叩いている。
思ったことが一つあるんだが、瀬川は着やせするタイプだと。
私服でラフな格好だと、あまりにも存在感があるなと感じる。
そんなことを思いながら瀬川のことを見ていると、彼女がこちらを見て、ニコッと微笑んでくる。
その表情に心が躍るのも束の間、瀬川の口から出てきた言葉に眉をひそめた。
「ビシバシ指導しますからねっ?」
「覚悟がまだなんですが……」
「じゃあ覚悟してください」
「んな、無茶な……」
そう言いながら天を仰ぐように顔を上げると、矢島がニヤつきながら口を開く。
「いつもやる気なくてだらしないんだから、これくらい頑張りなよ」
「失礼な、俺をいつもやる気のない奴だと?」
「あら違った? ならごめんなさーい」
「馬鹿にしやがって」
違わないから余計に腹立つ、そのことを知っていて矢島はニヤつきながら話してくる。
「まぁいいや、各々テスト範囲の勉強しようか」
「そうですね、分からない問題があったら聞いてください」
そんなこんなで、勉強会が始まった。
◆
「もうダメだぁ~、赤点確定だぁ」
「確定演出か」
「あぁ、右から入って左から抜けてく」
「俺も一緒だ、諦めるか」
そんな話をしていると、女性二人がジトっとした目で俺たちのことを交互に見る。
「だめだよ、良平はもうすこし自分で考えなさい」
「そうですよ? 一真くんはもう少し集中するべきです」
「「はい……」」
俺と良平はその言葉に、ガクッと肩を下ろし、机に向かう。
「本当にもう無理だぁ……」
「もう、今度はどうしたんですか?」
「お恥ずかしながらお腹がすきました」
俺がそう言うと、良平も同意してくれる。
もうすぐでお昼の時間になるし、今日朝抜いてたし。
「そうですね、お昼にしましょうか」
「どこかに食べに行くか?」
「え、食べに……?」
良平のその言葉に俺は思わずストップをかけてしまいそうになる。
せっかく、瀬川の家で勉強会をしているのだから、彼女の手料理が食べたい。
瀬川には苦労をかけまくりなのだが……。
「なんだ嫌なのか?」
「嫌っていうかー、動くのが面倒くさい的な?」
「まったく、どこまで動きたくないんだ」
「お、俺はお前みたいに体力バカじゃないんだよ!」
そう言いながらも、俺は瀬川の方へ視線を向ける。
そこでパチッと目が合い、瀬川は察してくれたのかスッと立ち上がる。
「ふふっ、私がご飯を作りますよ」
「おぉ! マジか! 俺女の子の手料理初めてなんだよ」
その言葉に、矢島も立ち上がる。
良平の初めてを瀬川に取られたくないのだ。
「せ、瀬川ちゃん! 私も手伝っていいかな!」
「本当ですかっ? ぜひお願いいたしますっ」
「うん! もちろんだよ!」
矢島も立ち上がり、瀬川のエプロンを借りてキッチンに立つ。
「矢島も作ってくれるのか?」
「う、うん……待っててね」
「おう、今から楽しみだ!」
俺はそんな矢島を見て、料理できるのか意外だと思ってたら、ギロリとこっちを睨んでくる。
「あんた、今コイツ、料理できるのかよとか思ったでしょ」
「い、いやぁ~お、おもってな……っておたま下げろよ! 人に向けるもんじゃねぇからそれ!」
おたまを俺の方へ向け、まるでレイピアのように構える矢島をなだめる。
てか調理器具をこうしてる時点で、不安になってくるんだが……まぁ瀬川がいるから大丈夫か。
なんという瀬川という安心感のある人物。
「俺たち、邪魔だよな」
「こういう時は邪魔って考えるより、俺たちが入らないことで良くなるって考えた方が楽だぞ」
「なるほど……ってそれやっぱり邪魔ってことじゃねぇか一真、俺たちも何かした方が良いだろ!」
働かざる者食うべからずと言いながら、キッチンの方へ向かって行ったが、即座に返されていた。
俺はそんな良平の頭を撫でて慰める。
「はい、できましたよ~、今日はチキンライスとコンソメスープに、緑のサラダにしてみました」
「おおっ、物凄く美味しそうだ」
「だ、だよな……」
じゅるりと思わずよだれが出そうなほど、美味しそうな匂いが充満している。
「あ、足りなかったら言ってくださいね? おかわりもありますし、昨日の残りでよかったら揚げ物とかもありますから」
「よっしゃー! ありがとうございますっ!」
その後、俺たちはお昼ご飯を食べ終わったあとも勉強をし、気が付けば18時を過ぎていた。
「今日はありがとうね瀬川ちゃん」
「いえいえ、私も楽しかったのでありがとうございます」
「あぁ! 今日は楽しかったな!」
三人はそう言いながら俺の方を見る。
なんだよ、と思い目を細める。
「アンタはどうだったのよ」
そう聞かれて、俺はハッとなる。
あー、俺も楽しかったんだなと今になって気づかされる。
「どっちの方がいいってわけじゃないんだけど、やっぱり複数人で遊ぶっていうのは一人の時間よりも濃密だと感じることが多いな」
「ふふっ、私には伝わりますけど、他二人にはあまり伝わってないようですよ? ほら、もっと簡単に言うと?」
瀬川は母のように会話を誘導してくる。
てか、なんで瀬川には伝わるんだよ。
「簡単に言うとだな! こういうのも悪くないなってことだ」
「素直じゃないですねっ」
「ホント、あんたの言い方紛らわしいのよ、要するに楽しかったってことね」
「ハハッ! 一真はいい奴だからな!」
俺は急に恥ずかしくなってしまい、サッと顔を逸らす。
二人が先に帰り、俺も帰ろうとした時だった。
ぎゅっと服の袖を掴まれる。
「あ、あの……!」
「ど、どうした瀬川?」
「お話があるんです……」
おい、ちょっと待て。
なんだこのイベントは……転校してきて1ヶ月経つくらいなのに俺にラブイベント発生かっ?!
俺の脳内は不安1割、緊張3割、期待6割だった。
自分でもめでたい脳内だと思う。
でも瀬川の表情がいつもと違う気がした。
頬をほんのりと赤くさせて、そわそわとどこか落ち着きがない。
これは本当にあるんじゃないかと思う、古賀一真だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます