第21話 勉強会 パート0

「今週の休みは矢島さんや木崎さんと、お勉強会ですからねっ?」

「誰の家でだよ」

「あれ、聞いてないんですか?」


 この瀬川の反応からしていいものではないな。

 俺はどういう返事が来るのか、身構えていた。


「私の家でやることになりましたっ」

「そうなのか……一言も聞いてない」

「ほ、本当ですか? 伝え忘れたんでしょうか」

「いや、アイツの場合、俺だったらいいだろ的なことだろ」

「そうですかね? 矢島さんはいい人ですよ?」


 お前らにはな、そう思ってしまう。

 俺がそう思っていると、瀬川が顔を覗き込んでくる。


「大丈夫ですか?」

「アイツが伝え忘れたってことは、俺は参加しなくても……」

「一真くん? 強制参加だって言いましたよね?」

「いや、でもほら、まだ2週間まえだし、ゴールデンウィークもあるしさ」

「言いましたよね?」

「……はい」


 この感じは絶対に断れないと思った。

 4人で勉強会ねぇ……。


「瀬川はいいのか?」

「なにがですか?」

「自分の家でやることになって」

「別にいいですよ? 片付いている方だと思いますし」


 そういうことじゃないんだが……。

 気持ち的な部分を聞いたのだが、まぁ瀬川がなんとも思っていないなら別にいいか。


 きょとんとした顔で俺のことを見ているが、それを見て肩の力が抜ける。


「まったく、とんでもなく優しいのか天然だかわからんな」

「そ、それは……褒めてます?」

「褒めてるよ」

「え、えへへ。そうですか、そうですかっ」


 満更でもない顔をしている瀬川を見ると、なんだか心が和む。

 子猫の可愛い動画を見ている気分と同じになる。


 頭に手を伸ばして、撫でてやりたい気持ちが襲ってくる。

 落ち着け俺、せっかく昔遊んでた女の子の友達に嫌われるわけにはいかない。


「と、とにかく嫌だったらすぐに言っていいんだからな?」

「前にも言いましたけど、私は自分で嫌なら嫌と言える人間ですよ」

「そ、そうか……そうだったな」

「ですが、心配してくれたんですよね? ありがとうございますっ」


 そう言うと、くしゃりと嬉しそうな笑みを向けてくる。

 そんな表情をされると、心配してよかったと思える。


 そして、勉強会当日となった。


「あんた、遅いわねー」


 矢島がぶすーとした表情で俺のことを見ながら言ってくる。

 ちなみにだ、遅刻していたならわかるがちゃんと集合時間には間に合っている。


「集合時間には間に合ってますー」

「あんた、こういうのはせめて5分前とかには来なさいよ」


 と言われてもだ、仕方ないだろ、家が隣なんだから。

 玄関出て5秒もせずに家に着くんだから。


 しかし、そんなことは口が裂けても言えないのでただただ、黙って聞いておく。


「瀬川ちゃんなんて、心配してたんだからー」

「や、矢島さんっ! 言わないでくださいよぉ」

「心配してくれてたのか?」


 俺がそう聞くと、恥ずかしそうにコクコクと頭を縦に振る。

 顔がみるみる赤くなっていくので、嘘じゃないと確信した。


「なんで心配してたんだよ、隣だろ」


 俺は矢島には聞こえないように、小さな声で瀬川に話す。

 すると、瀬川はもじもじとさらに恥ずかしそうにしながら口を開く。


「だ、だって、もし家で何かあったり、お外出てて悪いことに巻き込まれてたりしたらって考えちゃって……」


 ……なんだろう、ラブコメに出てくるヒロインが天使呼ばわりされることがあるけど、こういうことか。


 優しすぎる、いつも不憫な扱いを受けている俺の傷にはどんな薬よりも効果がある。


「そういえば木崎は?」


 さっきから木崎の姿が見えない。

 俺が矢島の方を向いて聞くと、ため息を吐いた。


「今、向かってるらしい」

「という事は遅刻か」


 よくもまぁ、堂々と遅刻を……ま、まぁ俺が言えたことではないが。


「良平、大丈夫かな」

「俺の時も心配したのか?」

「アンタの時なんかするわけないでしょ」

「おい、なんだその言い方は」


 別に? べつに分かってたけど?

 なんか言い方が腹立つ。


 ちょっと仕返ししてやろうと考えた。


「はぁーお子様体形で木崎から好かれるのかねー」

「アァン? 何か文句でも? 根性ナシのだらしな王子」

「おっと、冗談じょうだ――――いっでぇぇぇ!!」


 俺の腕にその言葉とほぼ同時くらいに嚙みついてきた。

 矢島の特徴のある八重歯が刺さる。


 血が出てるんじゃないかと思うくらいに痛い。


「矢島さんも、一真くんもやめなさい」

「だって、瀬川ちゃんー」

「はいはい、今のは一真くんが悪いですからね」

「うん……」


 瀬川に頭を撫でてもらって、満足したのか、矢島は猫の様に丸まっている。

 これは瀬川が言う通り俺が悪いので、素直に謝った。


「もう、普段はとても優しいんですから、皆さんにもやさしく接してあげてください」

「はい……」


 普段の俺が優しいかどうかは置いておいて、たしかに酷かった。


 それと同時にインターホンが鳴り木崎が合流するが爽やかな汗をかいている。


「今日ってそんなに暑かったか?」

「いや、別にそこまでだと思うけど」

「じゃあ木崎はなんでそんなに汗かいてるんだよ」


 俺がちょっと引き気味で聞いてみると、ニカッと笑いながら話してくる。


「俺は今日チャリで来たからな!」

「おい、ちょっと待て……ここから何キロある?」

「10キロくらいだったかな」

「頭まで筋肉なの?」

「一真、頭は筋肉じゃないぞ」


 ちげーよ、ボケじゃねぇよ。

 なんで俺がつっこまれたみたいになってるの。


 お前の頭が脳筋なのかって聞いたんだよ。


 そのやりとりの向こうでは矢島が信じられないという顔をしていた。

 矢島、これがお前が恋してる相手だ諦めろ。


 そんなこんなで全員が集合した。

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