第20話 味濃いな
「なんだよ、斗真ならまだ来ないぞ」
「別に、斗真のこと待ってたわけじゃないし」
嘘つくなよと感じる。
バッグを家に置いていない所からして待っていたに違いない。
今更、彼氏のこと待ってるって言うの恥ずかしいかね。
「はぁ、最悪」
「私も、なんか気まずい」
「そりゃ俺の方だ、弟の彼女に会うとか」
「しかも、一回告白してる奴にね」
笑いながら言ってくる。
真剣に言われるよりは笑ってくれた方がましか。
「言っとくがもう何も感じてないからな」
「そんなの知ってる」
「んじゃ、俺は行くから」
「斗真さ……私と付き合ってどう思ってるかな」
絵馬はそう言いながらどこか悲しそうな表情をする。
う~ん、なにかトラブルの予感。
俺は何個も問題を解決できるほどの男ではない。
「知らんわ、でも俺にマウント取れるくらいには、いい女ってことじゃねぇの?」
「いい女、カズマからそんな言葉が出るとは」
「俺が思ってるわけじゃねぇよ」
「はぁ? 知ってるわよ」
「俺はもっとおっぱいが大きくないとな」
「はいはい、理想だけは高いのね」
やれやれといった感じで絵馬は流す。
しかし、その会話が終了すると、彼女はまた悲しそうな不安そうな表情をする。
「お前は斗真のこと昔から好きなんだな」
「うん、そりゃあ中学の時から付き合ってるからね」
「そこじゃねぇよ、もっと前からお前は好きだったろ」
「――――ッ! き、気づいてたの?」
そう言うと、目を丸くして、恥ずかしそうに見てくる。
そりゃあ、あんな視線を送ってれば嫌でもわかる。
「もっと鈍感かと思ってたか? 残念、結構俺は鋭いんだ」
「なんかムカつく」
「なんでだよ!」
「言い方?」
疑問形なのは、とにかく理由はわからないけどムカつくというやつか。
次々質問するように絵馬が口を開く。
「じ、じゃあ知ってたのに告白したの?」
「そうなるな」
「な、なんで?」
「それ聞くか? そんなの、好きだったからしかないだろ」
ごく当たり前のことだ、好きだから付き合いたい。
告白するというのはそういうことだ。
「んじゃな」
「…………う、うん」
なんでそこまで驚くかな。
ずっと絵馬は斗真のことを好きだった、それは俺もわかってたことだ。
でもなんか派手にフラれて、結構吹っ切れたと思う。
思わせぶりさせられるよりいい。
◆
俺はそのあと、母さんと一緒のご飯を食べた。
母さんのご飯を食べたのは久しぶりだった。
「ど~う? お母さんの手料理は」
「なんか懐かしいけど、味濃いね」
「え、分量とかいつもと同じだけど……あんたカップ麺しか食べてないから味覚おかしくなったんじゃない?」
「んなわけないだろ……」
なぜ母さんの料理が味が濃いと思うのか、思い当たる節があった。
瀬川の手料理だ。
瀬川の手料理は、塩梅もちょうど良く、とてもバランスの良い料理となっている。
前まで味の濃いものが正義だった俺が、瀬川の料理が一番になってしまっているのだ。
短い時間だったが、ご飯を食べて食器を洗った後、帰る準備をする。
するとスタスタと母さんが俺の方へ来て、眉を下げている。
「斗真とは仲良くやれてる?」
「大丈夫、斗真のことは昔みたいにはならないから」
「母さんが言いたいことはそうじゃないんだけどなぁ」
母さんが言いたかったことはわからないけど、俺はそのまま帰ろうとした時また止められた。
「今度はなんだよ!」
すると、ぎゅっと抱きしめられる。
おい、この歳になってそれはきつすぎる。
「な、なにしてんだっ」
「また顔くらい出しなさいよ、出さなかったら家に行くからね」
「わかったよ」
俺はそう言って、家から出る。
当然だが、絵馬はもうそこにはいなかった。
しかし、現実が追い打ちをかけたときは大抵、なにかしらの出来事がある。
「あ、一真くん?」
「瀬川なにして……買い物か」
瀬川が両手いっぱいに重そうな袋を持っていたのですぐに買い物という事が分かった。
「結構買ったな」
「そ、そうですね……私料理も好きなんですけど、お買い物も好きなんですっ!」
「それで買いすぎちゃったってか?」
「そうですね……反省しないとですね」
両手の荷物も見ながら苦笑いする。
俺はすかさず、瀬川の手から重い荷物を代わりに持つ。
「え、え? わ、悪いですよっ」
「手首に食い込んで赤くなってるぞ」
「――――っ、こ、これはっ」
瀬川は自分の赤くなった手首をさすりながら、俺の方を見る。
そのときのウルウルした瞳での上目遣いは破壊力は言わずもがな。
「いいから、行くぞー」
「は、はい……」
なんとか平常心を保ちつつ、家に帰ることを促す。
しかし、なんか当たり前のように二人で帰ってるし、荷物持ってるけど……ヤバいよな。
「ち、ちょっと一真くん、歩くの早いですよ」
「わ、悪い……つい」
「私の足が短いのかもしれませんが……」
「いやいや、瀬川は足すらっとしてて、スタイルめっちゃいいでしょ!」
「うふふっ、そうですか? ありがとうございます」
うわ、勢いで言っちゃった。
てか、なんか言わされたというか、本心を引き出されたというか。
トコトコと俺の隣を歩くこの美少女転校生はまったく気にしていないように思える。
男と二人きりなのになぁ……もしや男と思われてないとか? ありそうだなー。
なんてことを考えながら、一緒に家に帰った。
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