第19話 現実は時に追い打ちをかけてくる

「どうした何か用か?」

「そんなに嫌そうにしないでよ、兄弟なんだし」

「そうだな……それで?」

「う~ん」


 そう言いながら、微妙な表情をしながら、俺の隣の木崎に視線を送る。

 木崎がいると、話しづらいという事だ。


「木崎すまん、先に行っててくれないか?」

「おう! 先に行ってるな!」

「悪いなありがとう」


 木崎が見えなくなってから、斗真は俺の方をジッと見てくる。


「最近さぁ、顔色良くなった?」

「そうか? いつも通りお前に似た顔だと思うが?」

「まえはもっと……まぁいいや」

「てか、お前の教室は西棟だろうが」


 俺たちの学校は1~4組は西棟、5~8組は東棟と分かれている。


「だから用事がないのにここまで来るのはおかしい、早く用件を言え」

「じゃあ単刀直入に、母さんがそろそろ顔くらい見せろだって」

「それだけか?」

「それだけって、まぁそうだね」


 家に帰らないといけないのか。

 俺は無理を言って一人暮らしさせてもらってるし、拒否権はないのだが。


「いいよね、兄さんは一人暮らしできて」

「あ?」

「一人暮らしかぁ、憧れちゃうなぁ」


 斗真のこの言葉は嫌みでしかない。

 それをコイツもわかっているのでたちが悪い。


「彼女といられるんだから、実家の方が良いだろ」

「そうかなー、あ、兄さんは実家だと気まずいか、エマにフラれてるもんね?」


 斗真の彼女は幼馴染の足立絵馬あだちえま

 斗真の幼馴染という事で俺の幼馴染にもなる。


 告白したのは2、3年も前の話だ。

 しかし、斗真たちはその前から、いや俺が告白する少し前から付き合っていた。


 まぁ今は全くなにも感じていないんだが。


「お前いつの話してんだよ、くだらねー」

「そう? 僕にとってこの話は面白くて、面白くない」

「あっそ」


 俺はこいつとの話を早々に切り上げて、教室へ戻ろうとした。


「自分の彼女が実の兄に狙われたなんて知ったら、面白くなかったよ」


 その言葉には反応しなかった。

 斗真の横にはいつも違う女が、いる気がする。


 しかし、浮気をしているなんて噂もないし、彼女がいるからキャキャッウフフのことができるのがうらやま――――なんてな。


「あ、おかえりなさい……どうかなさいました?」

「いや……ちょっと現実が本当に辛いなって」

「え、えぇ? いきなりどうしちゃったんですか」

「ははは、こっちの話ですのでお気になさらず」


 そう言いながら、買ってきたジュースを無気力に開け、ちゅるちゅるとすこしずつ飲む。


「それじゃ、今日俺予定あるから」

「そうですか……わかりました」

「また明日な」

「はい、また明日です」


 俺は学校からそのまま、家に向かう事にした。

 斗真は生徒会とか忙しいだろうし、帰ってくるのは遅い。


 実家から通う事が無くなっただけだが、なんか懐かしく感じてしまう。


 実家が近づいてくるにつれて、段々と足取りが重くなる。

 身体が拒否しているのだ。


「え、珍し……」

「え?」


 振り返るとそこには、絵馬が驚いた表情をして立っていた。

 肩より短い髪の毛が風で揺れる。


 今日はなんだか、別に会いたくない人に遭遇してしまう。


 俺はそう感じながら肩の力を抜く。

 現実は時に自分自身に追い打ちをかけてくる。

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