第18話 瀬川のお弁当

 勉強会が決まり俺は強制的に参加。

 瀬川のことを怒らせたつもりはないのだが……あの目は怒っているように思った。


 今日もいつも通り自分の席でご飯を食べている時だった。

 前の席に木崎が購買で買ってきたパンを持って座る。


「なんだよ、何か用か?」

「ん? あー、用事って程でもねぇけど、ダメか?」

「なにがだよ」

「一緒にメシ食べたくてよ」

「きゅるるんっ」


 ――――って、きゅるるんじゃねぇよ。

 危うくコイツの白い歯を見せつけるような笑顔に思わず好きになってしまうところだった。


「他の連中はどうしたよ」

「今日はお前と食べるって言った」

「微妙な顔してたろ」

「ん? あぁ、そうだななんでだ?」

「さぁな」


 俺なんかと一緒にご飯だなんて、いつも食べてる陽キャたちは驚くに決まっている。


 すると、矢島が瀬川の前に座ってくる。


「瀬川ちゃん、誰かと約束してる? 一緒に食べよ」

「いえ、まだ決まってないです、大丈夫ですよ」

「不自然すぎるだろ」

「なによ、うるさいわねアンタはいちいち」


 シャーッ! と猫のような威嚇をしてくる。

 鋭利な八重歯が俺の視界をちらつく。


 アレに噛まれると痛いんだよなぁ……。


「それに、今日は私も矢島さんと食べたくて他の人の誘いを断ったので、結局私から誘いにいったところです」

「瀬川ちゃん……」

「なので不自然なんかじゃありませんよ?」

「ふんっ、みたことか!」


 はいはい、俺が悪かったです。

 そんな目を送り、矢島は勝ち誇った笑みだった。


 まぁ、彼女の目当ては俺の前に座っている、木崎だけどな。


「瀬川ちゃんのお弁当って自分で作ってるの?」

「はい、そうですよ」

「うひゃ~、す、すごいねっ」

「お料理するの、好きなんですよね」

「私は料理するの苦手でさー」


 箸をもぐもぐしながら、羨ましそうな目線を送っている。

 そんな姿を瀬川が苦笑いしながら見ている。


「私は、ママに作ってもらってるからさー、自分で料理とかしないから」


 矢島が母親のことをママ呼び……なんとも可愛い呼び方なんだな。

 と、彼女のことを見ていると、ギロリと睨まれる。


「なによ、文句ある?」

「いや、ママ呼びは可愛いなと」

「――――っ、うるさいわね!」

「たしかに、ママ呼びは可愛いな!」

「え、そ、そうかな~」


 おい、俺の時との差が酷すぎるだろ。

 これが恋する乙女というやつか……。


「瀬川ちゃんのお弁当、ホント美味しそう」

「食べてみますか?」

「え、いいの!」

「はい、大丈夫ですよ」


 瀬川のお弁当から卵焼きを一口ぱくり。

 食べた途端、ふるふると震え始めた。


「う、うまっ! え、え? 同じ高校生が作った食べ物だと思えない」

「い、言いすぎですよ、そこまで褒められるものではないと思います」

「そんなことないよ! みんなにも食べてもらったらわかると思うよ」


 矢島はそう言いながら、瀬川の料理を褒めている。

 まぁ? 俺は前から知ってましたがね!


「なによそんなに、変な顔でジロジロ見て」

「矢島さん、変な顔だなんて……」

「あ、わかったアンタも食べたいんでしょ?」

「は? 何言って――――」

「そ、そうなんですか?」


 チラチラとこちらを見てくる瀬川にどうも否定できない。

 否定しなくちゃいけない、こんなに周りが見ている中で。


「あ、じ、じゃあ俺が食べたい!」

「良平はダメ!」

「な、なんでだよ~」

「……そんなの、ダメったらダメなの」


 理由になってない気がする。

 子供の様に、シュンとなっている木崎をみてため息が出る。



「き、木崎ジュース買って来ようぜ」

「おう、行くか……」


 俺は逃げるように、瀬川から離れる。

 木崎と行くことにより、さりげないを演出できたと思う。


「あのよー、一つ聞きたいんだけど」

「ん? なんだ?」

「なんで、瀬川さんと話すとき周りを気にしてるんだ?」

「…………俺みたいなダメ人間と一緒にいて、変な噂を立てられたら、困るだろ」


 俺が冗談でもなんでもなく本心から言っていることが分かったのか、木崎は困った様子だった。


「悪い、こんな話をするつもりじゃなかった」

「……いや、俺はお前がそんなダメな奴だとは思わないから、安心しろよ」

「お、おう……ありがとな」


 そう言って、なぜか恥ずかしくなってしまい、気まずい空気が漂う。


 ジュースを買って戻ろうとした時だった。

 後ろから、トントンと肩を叩かれる。


 そして、女子や周りの生徒のどよめきからして、誰かすぐにわかった。


「やぁ、兄さん」

「よぉ、弟」


 俺の弟、古賀斗真がニコニコと不気味に思ってしまう笑みを浮かべて立っていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る