第15話 いい男、木崎良平

 木崎良平、身長が高く、体育会系で現にバスケ部のエースである。

 周りには友達が多いし、陽キャであるが馬鹿だ。


 俺が分かっている所はここらへんだ。


「誰を見てるんですか?」

「木崎良平」

「あー、木崎さん人気者ですよね」

「そうだな、可愛げのあるバカというか」

「そんな馬鹿だなんて」


 もうっといった口調で俺に言ってくる。

 バカは余計だったが、愛されているのは本当のことだ。


「はぁー、協力するっていってもどうしたらいいかわかんないしよ」

「協力してくれるんですか?」

「なんだよ、その言い方、そんな驚くことか?」

「いや、普段の一真くんなら絶対に嫌がることと思っていたので」

「嫌がることと、腕一本は天秤が釣り合いもしない」


 嫌な事よりも腕が大事である。

 自分の身体は誰が何と言おうと一番大事なのだ。


「あはは……腕一本、確かに言われてましたね」

「止めてくれよ、瀬川……」

「私は恋する乙女の味方ですので」

「さいですか……」


 ため息交じりの返答をすると、ふふっと鼻から息が抜けるように軽く笑われる。


 その時の目尻が優しく下がった時の表情に俺はなぜだろう、目が離せなかった。


「一真くん?」

「あ、あぁ、どうした?」

「いえ、ぼーっとしてたようなので」

「そ、そうか? まぁ何か行動を起こさないといけないよな」

「え? あぁ、矢島さんの件ですか、それはそうですね」


 どうしたものでしょうかと瀬川は困ったように考えながら話す。


「俺も接点がないし、瀬川が急に行くのもな……」

「そうですね……何かないでしょうか」

「仕方ないっ! こうなったら強行突破だっ」


 俺はそう言って、木崎の所へ向かう。

 近くに行くとよりこいつのデカさに驚く。


 俺も小さい方ではないのだが、木崎の近くにいると俺が小さく見える。


「木崎、ちょっといいか?」

「おぉっ! 古賀か、どうしたんだ?」


 ニカッと笑い白い歯を見せてくる。

 なんと熱い笑顔なんだろう、熱気が伝わってきそうだ。


「すこし話したいことがあってだな」

「ここじゃダメな話か?」

「ま、まぁ話しにくいな」

「そうか、じゃあ廊下に移動するか」


 おっと、なんと聞き分けのいい男なんだ。

 とても気が利く男じゃないか。


「それで話ってなんだ?」

「木崎って彼女とかいるのか?」

「いないぞ? どうしてだ?」


 木崎のその質問に、矢島がお前のこと気になってるとは言えないからな。

 ここは聞かなかったことにして、次の質問にいこう。


「じ、じゃあ恋愛とかに興味はあるのか?」

「う~ん、そうだなー、今は部活に全力を注ぎたいかな」

「そうなのかっ?!」


 驚いた、見た目からして彼女ほしい勢かと思っていた。

 しかもよく陽キャ仲間たちから彼女いないのをいじられているし。


「意外か?」

「いーや、部活に全力を注ぐってのかっこいいよ」

「――――お、おまえ、!」

「は、はぁっ?!」


 木崎のやつ今、俺のこと良い奴とか言ったか?

 この俺だぞ? ダメ男でダメ兄であるのに。


「いっつも友達から部活と両立しろとか言われてよぉ……で、でも俺そんな器用な男じゃねぇからよ!」

「――――ッ!」

「恋愛もしたいけど、全力で愛せなかったら申し訳ねぇだろ?」

「それもそうだな」


 眩しい……。

 心の中でそう感じてしまった。


 コイツのことを世間ではいい男と言うんだ。


「お前の方が良い奴だよ」

「え、俺が? ただバカなだけだろー」

「ふっ、あはははっ!」

「こ、古賀っ……お前って笑うんだなっ!」


 何を今知りましたみたいなこと言ってるんだコイツは。

 自分のことをいい奴と思っていない、無自覚の馬鹿だコイツは。


「今度ご飯でも行かないか?」

「おうっ! 飯いいな!」

「じゃあ連絡先交換してくれよ」

「まだしてなかったかっ!」


 俺と木崎は連絡先を交換した。

 連絡アプリでのやりとりを何回かこなすうちに、いつの間にか俺と木崎、瀬川と矢島でご飯を行くことになった。


 頑張ったぞ、古賀一真。

 俺は自分自身を褒めてあげたい。


「ありがとね、きっかけつくってくれて」


 矢島が照れながらも俺に感謝を伝えてくる。

 ほほう、中々に可愛いな、俺のタイプではないが。


 木崎も可愛い女の子に惚れられたものだ。


「おう、気にするな、俺も木崎がいい奴だからこそ応援してる」

「そ、そうだよねっ! 良平いい奴だよねっ」

「お、おう……」


 家に帰り、すぐにベッドに倒れこみたい衝動を抑え、冷蔵庫から水を取り出し一口。


 ピンポーンとインターホンが鳴った。

 玄関を開けると、長い髪を靡かせて、夕暮れのオレンジ色の光が隙間からさしてくる。


 大きな瞳で俺の顔を見ると、心がフワッと浮くような笑顔を向けてくる。


「――――ッ、せ、瀬川か……どうした?」

「はいっ、作りすぎてしまって……食べてくれませんか?」


 今、言葉に詰まった。

 ハッキリ言おう、恥ずかしいほどに見惚れていた。


「ここじゃなんだし、家上がるか?」

「え、えっと……」

「あ、悪い、タッパーだから上がらなくてもいい――――」

「いえっ! 上がらせていただきますっ」


 俺の言葉を遮るように、瀬川は俺の家に上がる。

 でも、男の家に女の子一人でっていうのは……。


 そんな考えは、すぐに瀬川が通ったところの女子のいい匂いにかき消された。

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