第14話 誤解を解こう

「せ、瀬川……」

「なんですか? そんなに改まって」


 俺は正座をしながら、真っすぐと瀬川を見る。

 矢島の誤解を解くために、それ相応の態度をとっている。


「矢島のことなんだけど……」

「え、あ、あ~、き、今日はオムライスにしようかと」

「瀬川、聞いてくれ」

「――――ッ」


 俺は真剣なまなざしを向け、矢島のことを伝える。

 それを聞いた瀬川はなにやら肩の力が抜けている。


「私、どう反応したらいいかわからなかったんです」

「まぁ、急にびっくりするよな」

「それもありますが、100パーセントの気持ちで彼女に応えられる気がしなかったんです、だから、逃げるように態度というか、嫌な態度を……」

「人間ってそういうもんじゃねーの?」


 瀬川の悩みに、俺は軽い気持ちで答える。

 その言葉を聞いて瀬川は目を丸くしてきょとんとしている。


「誰だって、100パーセントで応えるなんてできるかなんてわからない、だから逃げ出したくなる」

「そ、そうですかね……」

「つーか、人間100パーセントなんて出せるときは限られるんだからよ、今は温存ってことでいいんじゃねぇの?」

「温存ですか……ふふふっ、はい! そうですね」


 くしゃりと口許を抑えながら、微笑む。

 クソ、瀬川が話題になったのもわかる気がする。気がするだけだ。


「それに、本当に逃げるっていうのは、相手のことも考えずに答えを出さないことだ、それがたとえ0パーセントの気持ちでも」

「……一真くん?」

「あ、いや、こっちの話だから気にすんな、んじゃまた明日」

「え、食べていかないんですかっ?」

「悪い、今日は遠慮しとくよ」


 俺は瀬川の誘いを断り、自分の家に帰った。

 さっき、自分の言葉で胸の中に何かがつっかり、いい気分ではなかった。


 こんな気持ちで瀬川の手料理を食べるのは、失礼だ。

 カップ麺を開けお湯を注ぎ、3分待つ。


 その3分間が今日はやけに長い気がした。


「うまっ……」


 久しぶりのカップ麺を味わいながら食べる。


「あ、古賀」

「おはようございます、一真くん」

「お、おはよう……ってなんだよ」

「ふふっ、矢島さんほら」


 瀬川に背中をポンと押され矢島は一歩前に出る。

 しかし、前に来れば来るほど、矢島の身長が小さいことに気づく。


「あのさ、ありがとう……色々と」

「え、なに? 怖いんだけど」

「――――っ! アンタねぇ!」

「一真くん」


 冷ややかな、声色が俺の名前を呼ぶ。

 俺は壊れたロボットの様に、ぎこちない動きで声の方向を見る。


「女の子がありがとうと言ったのに、怖いはないと思いますよ」

「いや、これは……」

「一真くん? もう一度言わなければなりませんか?」

「お、俺は何もしてねぇよ、礼を言うのは勝手だがなっ!」


 これでいいかというような態度を瀬川に取る。

 まぁいいでしょういった態度だった。


「ぷぷっ、あはははっ! あんた面白いわぁ~」

「なんでだよ」

「カッコつけようとしてるのかわからないけど、似合ってないわよ」

「――――うるせっ」


 俺がそう言うと、二人は顔を見合わせて笑っている。

 この二人、ここまで仲良かったか?


「あっ、そーだ瀬川ちゃんには私の好きな人言ったから」

「あ、そう」

「それでぇ~、アンタにも言おうかなって」

「はっ?! なんで?」


 ニヤニヤして俺に顔を近づけてくる。

 なにやらその奥からムッとしたちょっとチクっとした視線が飛んできた。


「私が好きな人と付き合うために手伝ってよ」

「はぁ? なんで俺が」

「いいじゃーん、私の好きな人はね木崎良平きさきりょうへいくんなのっ!」


 しまった。聞いてしまった。

 いや、今からでも聞いていないことにして……。


「ね? 手伝ってくれるよね?」

「いや、その……聞いてなか――――」

「返答はイエスかノー、もしノーなら」

「ノーなら?」


 バキバキと右手を鳴らしながら、異様な雰囲気を醸し出している。


「アンタの腕、へし折るからっ!」


 八重歯をきらりと輝かせながら、にこやかに言うセリフではない。

 おい、俺の平穏な生活、帰ってきてくれよ……。

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