第13話 まさかの勘違い? 矢島の好きな人

 うどんを食堂で食べた後だが、満足はいかなかった。

 量や味の問題ではなく、気持ち的に相談を受けた時のご飯は満足がいかない。


「おかえりなさいっ、遅かったですね?」

「購買はほとんど売り切れてて食堂に行った」

「食堂……聞いたことあるかもです」

「そっか、瀬川はまだ行ったことないのか」


 転校してきてまだ数週間、それは仕方ないかもしれないな。


「それじゃあ今度、時間がある時行ってみるか?」

「え、い、いいんですかっ?!」

「いや、別にこの学校の生徒なんだからいいだろ」

「じ、じゃあお言葉に甘えて……」


 お言葉に甘えるほどのことじゃないと思うが、まぁ誰でも最初は緊張とか不安があるもんだな。


 俺はきっかけを与えるだけだと感じていた。


「しかし、どうすっかなぁ……」

「なにがですか?」

「いや、こっちの話」

「……そうですか」


 うーん、困ったものだ。

 そう考えていると、矢島が俺のことをものすごい表情で見てくる。


 もう睨みつけてるだろそれ……。


 ここで、やっぱり聞けませんでしたーとか言ったら、何されるかわからないしな……。


 そんなこんなで、放課後になっていた。

 まずいまずい……矢島の顔も鬼の様になってきてるし……。


 パチッと目があったら、顎をクイっとあげ合図してくる。

 たぶん「古賀、アンタいつまで待たせるわけ?」という意味を込めているだろう。


 待てよ? 見返りもないのになんで俺がこんなことをしなくてはいけないんだ?


「ど、どうかしましたか?」

「え、なにが?」

「それは私が聞きたいですよ! 授業中もジーっと見てきたり、う~んとか悩んだり、なにかありましたか?」

「い、いやーその……」


 これはチャンスだ、俺は肩の力を抜く。

 情けは人の為ならず。


 これは俺にいいことが返ってくることを期待して、ここで聞くことを決めた。


「瀬川、ちょっと話があるんだ」

「お、お話ですか……?」

「そんな固くなるな、別にヤバい話じゃない」

「ほ、本当……ですよね?」


 瀬川は話と聞いて不安になっている様子だった。

 目線がうようよと動いている。


 なんだか申し訳ない気がしてくる。


「あのな……瀬川、お前好きな人いるのか?」

「ひぇっ?! な、なにを言うんですか!」


 な、なんだ? この反応……完全にいるとしか思えないな。

 数週間で……いや、東京に好きな人とお別れとか……。


 いや、もしいたら俺の部屋に来るとか、入れるとかはしないな。

 そんな人間じゃないことくらい過ごせばわかる。


「いや、実を言うとな?」


 俺は周りに聞こえないように、見つからないように、瀬川に耳打ちして話す。

 矢島が瀬川のことが気になっているから好きな人がいるのか聞いたことを。


「そ、そうだったんですか……」

「それでいるのか?」

「……いないと言った方が


 なんだそれと思ったが、まぁいないという事なら矢島も安心だな。


 俺は教室から出るときに、矢島に合図を送る。

 すると、矢島はこっそりと教室の外へ着いてくる。


「それで、どうだったのよ」

「いないってよ」

「そっかぁ! よかったぁ!」

「そんなに嬉しいか」

「もちろんっ! 


 そう言いながら、鋭利に尖った八重歯を出しながら笑顔を見せてくる。

 ――――ん? 恋敵になったら?


「え、矢島って瀬川のこと好きなんじゃないの?」

「なんで私が瀬川ちゃんのことを好きになるのよ? 友達としては仲良くしたいと思ってるけど……」

「え……そ、そっかぁ、よかったよかったぁ!」


 俺はそそくさと立ち去ろうとした。

 ここにいてはだめだ。

 俺はなにもしていない、仕方ないことだったんだ。


「ちょっと待ちなさい、何か隠してるわね?」

「いや……その、ね?」

「言わないと、どうなるかわかるわよね?」

「め、目が笑ってませんよ矢島さん……」


 矢島は笑っているように見えて、目のハイライトが消えているように思った。


 俺は矢島の圧に負け、話すことにした。


「な、何してんのよぉ!!!」


 そう言って、俺の腕を噛んでくる。

 痛い、ものすごく痛い、鋭利な八重歯が腕に食い込んでくる。


「あっ……」

「せ、瀬川ちゃん……」

「あ、あは、は……ま、また明日」


 できる限りの笑顔といった感じの表情を作り、瀬川はコクリと会釈して廊下を早歩きで去って行った。


「どうすんのよっ! あの態度絶対意識されてるって!」

「し、仕方ないだろっ、本当にそう思ったんだから……」


 あとで、あの件は間違いだったって言うしかないか……。

 はぁ、やるべきじゃなかった。


 俺がやる義理なんてどこにもないのに、どうして話してしまったのだ。

 今日はため息が多くなる。


「誤解をとくしかないな」

「とにかく、私もある程度喋ってみようと思うから、そっちからもお願いねっ」


 投げやりになると思っていたが、そんなこともないらしい。

 じゃあ、矢島の好きな人っていったい誰なんだ?


 いや、やめておこう。

 また厄介な事に巻き込まれたら仕方ない。


 別に誰が付き合おうが、俺には興味がないのだから。

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