第12話 普通のうどんと重たいカレーラーメン

「おはようございます」

「お、おはよう」


 ホームルームが始まる5分前ほどの学校に着いた俺は瀬川に挨拶をされる。


 昨日の下着のことはまぁまぁ覚えているため、少々ぎこちない挨拶になってしまった。


「もう、一体何時に家出てるんですか」


 瀬川は呆れるようにジト目で俺のことを見ながら言ってくる。


「んーと、結構遅いかな」

「でしょうね、じゃないとこの時間に着いたりはしません」

「そっちは何時に出てるんだよ」

「私ですか? 今日は40分ほど前に出ましたね」

「よ、よんじゅっぷんっ!?」


 俺は瀬川が家を出ている時間に驚愕した。

 さすがは優等生の転校生として知られているだけある。


 転校してきてから数週間が立ち、瀬川は容姿端麗、運動抜群、性格良しという学校の優等生美少女として認定されていた。


「そ、そんなに驚くことですか?」

「さすが優等生だ」

「やめてください、そういう言い方はあまり好きじゃないです」

「そうか、わかった」


 優等生、俺からしたらこんなにかっこいい響きの称号はないと思うが。

 しかし、それを言われ慣れてる人からしたら嫌になってくる部分もある。


「やっと、お昼かぁ~」

「やっとって……一真くん授業の最後の方は寝てるじゃないですか」

「ははは、過去は振り返らないのさ」

「3回起こして諦めました」


 逆に3回もこんな俺を起こしてくれるのだから瀬川は優しい。

 普通、こんな奴のことは放っておく。


「ま、いいや俺、弁当買ってくるから」

「購買ですか?」

「うーん、まぁそーかなー」

「もう、ちゃんと栄養を考えてくださいよ?」

「購買に行く時点で栄養など考えるか」


 子供のような言い訳をして俺は購買へと足を運ぶ。

 しかし、俺は購買ではなく、食堂へと運んでいた。


 いつもは人数が多すぎて食堂は使わないのだが、今日は購買に目当てのパンがなかったため、仕方なく食堂へ行く。


「座れないと思ってたけど、座れたー」


 端の誰にも見えない、目立たない場所に座る。

 他の場所は埋まっているだけが……ここは俺が見つけた食堂の穴場スポットなのである!


 そんなことを心の中で思っていたら、俺の目の前にカレーラーメンを頼んでいる女子生徒が来た。


 俺はちなみに350円のうどんだ。

 ていうか俺の穴場スポットがバレているとは……。


「カレーラーメンか……」

「ちょっと声に出てるんですけど」


 やべっ! まじか……カレーラーメンは結構重いんじゃないのかと思っただけだ、まだ授業は残ってるからな。


「あげないよ? 私が買ったんだから」

「いらねぇよ、俺はうどんで十分だ」

「ふぅん、普通ね」


 なんか、腹立つ言い方だな。

 普通が一番だろうが、七味とかかければ味にも深みや辛さを求めることができるしな。


「……ねぇ、古賀って転校生と仲いいよね? 瀬川ちゃんと」

「……仲良くはないが」

「でも今日もなんか仲良さそうに喋ってたじゃん」

「え、こわ」


 え、なんで喋ってたこと知ってるの?

 もしかしてストーカー? 俺の? 瀬川の? 後者の方がありえそうだ。


「ちょっとアンタなんか勘違いしてない?」

「え?」

「私、矢島桜アンタと同じクラスなんだけど……」

「え、そうなんだ……」

「古賀アンタやっぱり変わってるわ」


 そう言われるが、一か月も経ってないからしょうがないだろ、顔だって全員が覚えているわけない。


「古賀にさぁ……一個頼みたいことあるんだけど」

「嫌だ」

「まだ何も言ってないんだけどっ!」

「めんどくさそうだし……」


 俺がそう言うと、矢島はキッと睨むように視線を向け怒ってくる。


「一応聞くがなんだ」

「あのさ……瀬川ちゃんって好きな人いるのかな……?」

「……え、知らない」

「そ、それを聞いてほしいの……」


 恥ずかしそうに俺に聞いてくる矢島の目は


「えっと、それはどうしてか聞いても?」

「アンタ、それも言わせる気、なの?」


 あ、ダメだこれはガチのやつだ。

 俺はこの時、矢島が瀬川のことを好きなんだと確信した。

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